「税効果会計に係る会計基準」の一部改正について②

前回に引き続き、『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』についての解説をしていきたいと思います。

『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』は、実務上の要請及び繰延税金資産・負債の実現が実質的に一年以内に行われないことを理由として、主に繰延税金資産/負債の表示を一年基準によって流動・固定の分類とするのではなく、固定資産または固定負債として表示するよう変更するものでした。

これ以外にも各種の変更が加えられており、特に表示の面でそれ以前からの変更がありました。

今回も、この改正について、詳細に解説をしていきたいと思います。

1.注記事項に追加すべき項目の検討

税効果会計基準では、税効果会計に関する注記事項として、次の事項が定められています。

なお、()内はそれぞれの注記の名称となります。


(1) 繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳(「発生原因別の注記」)
(2) 税金等調整前当期純利益又は税引前当期純利益(「税引前純利益」)に対する法人税等(法人税等調整額を含む。)の比率(「税負担率」)と法定実効税率との間に重要な差異があるときは、当該差異の原因となった主要な項目別の内訳(「税率差異の注記」)
(3) 税率の変更により繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額
(4) 決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響

いずれも実務に浸透して大分経過しているので、開示に詳しい方は何度も見たことがあると思います。

2.注記の検討過程について

注記検討は、以下のような形で行われました。

まず注記事項の追加を検討するにあたっては、財務諸表利用者が税効果会計に関連する注記事項を利用する目的やその分析内容、実際に利用している情報を検討した上で、現状において不足している情報を明確にすべきと考えられるため、主として株価予測を行う財務諸表利用者と主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者を中心に、その分析内容及び現状において不足している情報の検討が行われました。

検討の結果、主として株価予測を行う財務諸表利用者は、一般的に、6 か月から 1 年後程度の株価を予想し、当該株価に対して現在の株価が割安か割高かについての分析を行っていました。


また、この場合の将来の株価については、主に株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)、又はそれらのうち複数を用いて予想しているものと考えらます。

これらの分析においては、将来 2 年から 5 年後の予想財務諸表(貸借対照表、損益計算書及びキャッシュ・フロー計算書)を用いて将来の 1 株当たり利益(EPS)若しくは 1 株当たり純資産(BPS)又は DCF を算出するため、将来の税負担率の予測が重要となります。

この税負担率を予測する過程においては、必要に応じて、繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価を行い税金費用の金額を予測することもあるでしょう。


他方、主として企業の信用力の評価を行う財務諸表利用者は、一般的に、上記の分析に加えて企業の財務の安全性や債務の返済能力についても分析を行っているものと考えられます。

具体的には、自己資本比率や債務償還年数を検証しており、これらの分析においても、繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価や税負担率の予測が必要となります。

このように、財務諸表利用者が税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から分析を行うことに着目し、実際に利用している情報を検討した結果、現状において不足している情報として、評価性引当額の内訳に関する情報、税務上の繰越欠損金に関する情報及び税法の改正による影響額が識別されました。

このうち評価性引当額の内訳に関する情報及び税務上の繰越欠損金に関する情報については、現状において情報が不足している理由及び追加する注記事項の内容がこの一部改正の第 25項以降に記載されています。

3.税制改正の影響について

税法の改正による影響額については、財務諸表利用者が、当年度の税負担率から一過性の原因により生じたものを除いて将来の税負担率を予測する場合、税率の変更による影響のみならず、当該影響を含む税法の改正による影響を考慮することとなると考えられるため、税制改正の情報の注記を追加すべき項目とするか否かについての検討がなされました。

検討の結果、税法の改正の内容を注記する場合、繰延税金資産及び繰延税金負債に重要な影響を与えるものを特定した上で、税法の改正を考慮していないことを前提にした繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する必要があり、特に在外子会社の税制は多様であることから当該算定が煩雑であるとの意見が聞かれたため、コストと便益の比較の観点から、税法の改正による影響額を注記事項に追加しないこととしました。

公開草案に寄せられたコメントでは、本会計基準第 4 項(評価性引当額の注記)や第 5 項(繰延税金資産・負債の発生原因別の内訳)の注記について、IFRS では必ずしも求められていないものが含まれるため、追加すべきではないとの意見もあったようです。


しかしながら、注記事項の追加に関する多数の論点を検討するにあたりこの注記はどちらも、財務諸表利用者が税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から分析を行うことに着目することとし、その分析内容及び実際に利用している情報を十分に検討した上で必要となる注記事項を定めたものであり、国際的な会計基準については、参考にはするものの、国際的な会計基準の定めがある項目に合わせることはしていないことから、注記事項と採用されたという経緯があります。