評価性引当額の注記について②
前回に引き続き、『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』についての解説をしていきたいと思います。
前回のコラムの内容の復習も含め、評価性引当額のおさらいをしてみたいと思います。
まず、評価性引当額とは、将来減算一時差異が解消するときに課税所得を減少させ、税金負担額を減額すると認められる範囲でのみ計上されている繰延税金資産について、回収可能性がないことから、その減額範囲を超えると判断されて部分的に繰延税金資産から控除した金額のことを指します。
繰延税金資産に将来の税金の削減効果あると認められるためには、回収可能性があることが必要で、十分な課税所得が見込まれる場合には繰延税金資産として計上が認められるものの、十分な課税所得がないことにより回収可能性が認められないような場合があると当然に想定されますが、評価性引当額とはこうしたケースにおいて繰延税金資産とならなかった金額をいいます。
評価性引当額は、状況変化により将来の見込まれる課税所得が増加すれば回収可能性が認められますから、繰延税金資産として計上することができます。すなわち、繰延税金資産が同じ金額だけ貸借対照表に計上されていても、評価性引当額があるかないかで将来の税金費用の削減効果のポテンシャルが大きく違ってくることになります。
今回解説している一部改正においては、一部改正以前には繰越欠損金に関する評価性引当額の注記が存在していませんでした。これが一部改正によって追加されるようになった背景は、財務諸表利用者が税率差異の分析を行う際や、繰延税金資産の回収可能性の不確実性の分析をする際に、繰越欠損金の評価性引当額の内訳の情報は有用と考えられるためとなっております。
以上が前回までの内容になります。
今回は引き続き、評価性引当額の注記についての解説をしていきたいと思います。
1.評価性引当額の内訳に関する数値情報の記載の要否に関する重要性の判断
一部改正の注8には以下のような規定がありますが、この章ではこれについて解説をしていきたいと思います。
『繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を注記するにあたっては、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)を併せて記載する。繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)は、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載する。』
評価性引当額の内訳に関する数値情報は、税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点の双方から追加している点を勘案して考えると、上記の「繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるとき」における「重要であるとき」とは、以下のように考えるのが適切です。
⑴税負担率の予測の観点からは、税務上の繰越欠損金の繰越期間にわたり課税所得が生じる場合、当該繰越期間の税負担率に影響が生じる可能性があるため、「重要であるとき」には、例えば、税務上の繰越欠損金の控除見込額(課税所得との相殺見込額)が将来の税負担率に重要な影響を及ぼす場合が含まれます。
⑵繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点からは、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額の記載により、当該税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額を理解することができるため、「重要であるとき」には、例えば、純資産の額に対する税務上の繰越欠損金の額(納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額)の割合が重要な場合が含まれます。
ただし、企業が置かれた状況によって重要性は異なるため、一律に重要性の基準を定めることは適切ではないと考えられます。実務上は、企業の状況に応じて適切に判断することが重要です。
2.評価性引当額の注記の対象となる範囲
次にどこまでが評価性引当額の範囲に入るかについて解説をしていきたいと思います。
繰越外国税額控除や繰越可能な租税特別措置法上の法人税額の特別控除等に係る繰延税金資産についてじは、審議の中で繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)を注記の対象とするか否かが必ずしも明らかではないとの意見が聞かれたことから、これらについても評価性引当額に関する注記の対象となることが明らかになりました。
なお、子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異について、「税効果適用指針」第 22 項(1)を満たさないことにより繰延税金資産を計上していない場合は、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産が存在しないため、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)も存在しないと考えます。
また、組織再編に伴い受け取った子会社株式等に係る将来減算一時差異のうち、その株式の受取時に生じていたものについて、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思決定及び実施計画が存在しない場合に、税効果適用指針第 8 項(1)ただし書きにより繰延税金資産を計上していないときについても同様です。