市場販売目的のソフトウェアの減価償却について
前回に引き続き、市場販売目的のソフトウェアの論点について解説をしていきます。
今回は、市場販売目的のソフトウェアの減価償却について、解説していきたいと思います。
1.市場販売目的のソフトウェアの減価償却方法
「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(以下、「実務指針」とする)によれば、市場販売目的のソフトウェアに関する減価償却方法は、ソフトウェアの性格に応じて最も合理的とえられる減価償却の方法を採用すべきであるとされています。
そして合理的な償却方法としての具体例(もっとも一般的な方法)としては、見込販売数量に基づく方法のほか、見込販売収益に基づく償却方法も認められています。
これは、ソフトウェア自身には物理的実態がないため、数量ベースで原価の費消の態様をつかめる製造業における製品原価と異なり、販売量ベースで把握することが適切であるケースが多いこと、また、ソフトウェアの性質、具体的には量産品なのか、価格に柔軟性のあるカスタマイズ型の製品なのかなどにより、販売数量が合理的な場合と販売収益が合理的な場合とに分かれると考えられるからです。
ただし、毎期の減価償却額は、残存有効期間に基づく均等配分額を下回ってはならないとされています。
したがって、毎期の減価償却額は、見込販売数量(又は見込販売収益)に基づく償却額と残存有効期間に基づく均等配分額とを比較し、いずれか大きい額を計上することになります。
この場合は、当初における販売可能な有効期間の見積りは、原則として3年以内の年数とし、3年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことが必要であるとされています。(一般にソフトウエア業界は製品陳腐化が非常に速い)
また、このような規定となっているもう一つの理由としては、見込販売数量(又は見込販売収益)の見積りの困難性から、償却期間が長期化することを防止するために毎期の償却額の下限を設定したものであり、販売可能な有効期間の見積りは、原則として3年以内の年数とすることとしたということがあります。
2.見積の変更が生じた場合
次に、見込販売数量(又は見込販売収益)の見直しの結果、見込販売数量(又は見込販売収益)
を変更した場合の減価償却の方法について解説をしていきます。
無形固定資産として計上したソフトウェアの取得原価を見込販売数量(又は見込販売収益)に基づき減価償却を実施する場合、適宜見込販売数量(又は見込販売収益)の見直しが必要となります。
というのも、当初の販売計画通りに販売が実行できるとは限らないため、実態に合わせて修正しないと収益と費用の対応において、大きな乖離が生じてしまうからです。
実際、ソフトウェアの見込販売数量(又は見込販売収益)の見積りは、様々な要因により影響を受けるものですので、それぞれの見積り時点では最善の見積りであっても、時の経過に伴う新たな要因の発生等により変動することが予想されます。
過年度遡及会計基準第17項においても、「会計上の見積りの変更は、当該変更が変更期間のみに影響する場合には、当該変更期間に会計処理を行い、当該変更が将来の期間にも影響する場合には、将来にわたり会計処理を行う。」こととされているように、市場販売目的のソフトウェアの減価償却時に行われる見込販売数量または見込販売収益の見積については、当然に会計上の見積に該当するためこの規定に従って処理する必要があります。
このため、販売開始後の見込販売数量(又は見込販売収益)の見直しの結果、見込販売数量(又は見込販売収益)を変更した場合には、変更後の見込販売数量(又は見込販売収益)に基づき、当事業年度及び将来の期間の損益で認識することとなります。
なお、見込販売数量(又は見込販売収益)の変更について、過去に見積もった見込販売数量(又は見込販売収益)がその時点での合理的な見積りに基づくものでなく、これを事後的に合理的な見積りに基づいたものに変更する場合には、会計上の見積りの変更ではなく過去の誤謬の訂正に該当することに留意が必要です。
3.未償却残高が収益を超過した場合の処理
次に、各事業年度末の未償却残高が翌期以降の見込販売収益を上回ることとなった場合の当該超過額の費用又は損失の処理方法について解説をしていきたいと思います。
販売期間の経過に伴い、減価償却を実施した後の未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回った場合には、その超過額は一時の費用又は損失として処理することになります。
市場販売目的のソフトウェアの経済価値は、将来の収益獲得に基づくものと考えるのが原則です。
しかし販売期間の経過に伴い、著しく販売価格が下落する性格を有するソフトウェアの場合、各年度末の未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を上回ることもあります。
このような場合いは、市場販売目的のソフトウェアの経済価値は将来の収益獲得に等しいことから、各年度の未償却残高が翌期以降の見込販売収益の額を超過してしまっている場合には、この超過額分については経済価値が失われていると考え、一時の費用又は損失として処理することが妥当です。
4.開示項目
実務指針において、 市場販売目的のソフトウェアの減価償却方法に関する開示として、以下の2項目が挙げられています。
ア.市場販売目的のソフトウェアに関して採用した減価償却の方法
イ.見込有効期間(年数)