リース基準の公開草案改正の背景について(4)
前回に引き続き、2023年5月2日に企業会計基準委員会より公表された企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」等及び企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」に関する解説をしていきたいと思います。
今回は、新しいリース基準における他の会計基準との関係、及び個別財務諸表への適用という観点から解説をしていきたいと思います。
1.他の会計基準との関係
企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」においては、実務対応報告第 35 号の範囲に含まれる公共施設等運営事業における運営権者による公共施設等運営権の取得については、この運営権の構成要素にリースが含まれるかどうかにかかわらず、会計基準の範囲に含めないこととしています。
これは、実務対応報告第35号においては、運営権を分割せずに一括して会計処理を行うこととしておいるため、この運営権の構成要素についてリースに該当するかどうかの検討を行ってしまうと上記の会計処理の考え方と矛盾するため、リースの検討を行わないようにする目的で定められたものです。
また、貸手によるリースのうち、収益認識会計基準の範囲に含まれる貸手による知的財産のライセンスの供与については、IFRS第16号と同様に、本会計基準の範囲に含めないこととしました。
これは、企業会計基準適用指針第 30 号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(「収益認識適用指針」)は、知的財産のライセンスには、ソフトウェアのライセンスが含まれるとしているため、収益認識会計基準の範囲に含まれるソフトウェアのライセンスの付与には収益認識会計基準の方を優先的に適用することになるためです。
貸手によるその他の無形固定資産のリースについては、IFRS 第16 号ではその適用を任意とする定めはありません。
しかし、我が国の実務においてその他の無形固定資産のリースが広範に行われているような実態は今のところなく、また、企業会計基準第13 号(旧リース基準)における会計処理を変更する必要がないようにするため、本会計基準の適用は任意とされています。
さらに、借手によるリースのうち、無形固定資産のリースについては、借手によるソフトウェアのリースが企業会計基準第 13 号に基づいて会計処理されている実務を変更する必要がないようにするとともに、無形資産のリースに適用することを要求されていない IFRS 第 16 号との整合性を図るため、企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」の適用は任意という整理になっています。
2.個別財務諸表への適用
今回の新しいリース基準を制定するに当たり、借手の会計処理について検討を行う項目として「連結財務諸表と個別財務諸表の関係」を識別し、本会計基準を連結財務諸表のみに適用すべきか、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に適用すべきかを検討するため、次のような4つの観点から議論が行われました。
(1) 国際的な比較可能性
(2) 関連諸法規等(法人税法、分配規制、自己資本比率規制、民法(賃貸借)、法人企業統計)との利害調整
(3) 中小規模の企業における適用上のコスト
(4) 連結財務諸表と個別財務諸表で異なる会計処理を定める影響
これまで我が国においては歴史的に連結財務諸表が個別財務諸表の積み上げとして捉えられており、また、投資家の意思決定の有用性について、連結財務諸表と個別財務諸表で異なる説明をすることは難しく、同じ経済実態に対し、連結財務諸表と個別財務諸表とで異なる考えに基づく会計処理を求める会計基準を開発することは適切ではないとの考えに基づき、従来から、原則として、会計基準は連結財務諸表と個別財務諸表の両方に同様に適用されるものとして開発されているという実態があります。
また、企業会計基準委員会が2022年8月に公表した中期運営方針においては、開発する会計基準を連結財務諸表と個別財務諸表の両方に同様に適用することが原則であることを示した上で、個々の会計基準の開発においては、特に個別財務諸表において関連諸法規等の利害調整に関係するためにその原則に従うべきではない事象が識別されるかどうかを検討することを同時に示しています。
それでは、この新しいリース基準制定において、個別財務諸表における会計処理という観点にたったときに、従来からの基準開発に対する基本的な考え方及び方針を覆すに値する事情は存在するのでしょうか。
様々な議論がなされた結果、新しいリース基準の適用に関する懸念の多くは、個別財務諸表固有の論点ではないと考えられ、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理は同一であるべきとする基本的な考え方及び方針を覆すに値する事情は存在しないと判断され、連結財務諸表と個別財務諸表とで企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」の適用の面で違いはないという結論になりました。