リース基準の公開草案改正の背景について(9)
前回に引き続き、2023年5月2日に企業会計基準委員会より公表された企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」等及び企業会計基準適用指針公開草案第 73 号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」に関する解説をしていきたいと思います。
前回のコラムでは、契約上のリース期間に加えてリースの延長オプションまたは中途解約のオプションが設けられている場合にそれらのオプション期間を「リース期間」に含めるべきかについて考察しました。
今回のテーマは貸手のリース期間についてです。
結論からいうと、新しいリース基準における貸手のリース期間の考え方は、借手のリース期間の考え方と同様にIFRS第16号を踏襲したものとなっています。
それでは、詳細に見ていきましょう。
1.貸手のリース期間
前回は借手のリース期間についてみていきましたが、今回は貸手のリース期間について見ていきましょう。
国際的な会計基準においては、貸手のリース期間について、借手のリース期間と共通の定めとなっていますが、企業会計基準公開草案第 73 号「リースに関する会計基準(案)」第30項によれば、貸手のリース期間については以下のような記載がされております。
貸手は、貸手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、リースが置かれている状況からみて借手が再リースする意思が明らかな場合の再リース期間を加えて決定する。
これは、前回のコラムで解説した借手のリース期間の「借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間及び借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定する」といった定めと同様の解釈と考えてよいでしょう。
今回の新しいリース基準の審議の過程では、貸手のリース期間について借手のリース期間と同様にすることが検討されまましたが、次の理由から、国際的な会計基準との整合性を図らずに、企業会計基準第 13 号の定めを踏襲することとされました。
(1) 貸手は、借手による延長又は解約オプションの行使可能性が合理的に確実か否かを評価することが困難であること
(2) 本会計基準は、主として借手の会計処理について改正を行うものであること
オプションの選択は借手側が行うものですので、実態を反映した会計処理であるといえます。
2.借手における費用配分の基本的な考え方
借手のリースの費用配分の方法として、IFRS第16号では、すべてのリースを借手に対する金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る金利費用を別個に認識する単一の会計処理モデル(単一の会計処理モデル)が採用されています。
これに対して、米国基準であるTopic842では、オペレーティング・リースの借手が取得する権利及び義務は、残存する資産に対する権利及びエクスポージャーを有さず、オペレーティング・リースを均等なリース料と引き換えにリース期間にわたって原資産に毎期均等にアクセスする経済的便益を享受するものと捉えて、従前と同様にファイナンス・リース(減価償却費と金利費用を別個に認識する。)とオペレーティング・リース(通常、均等な単一のリース費用を認識する。)に区分する 2 区分の会計処理モデル(以下2 区分の会計処理モデル)が採用されています。
この点、今回の新しいリース基準では、借手のリースの費用配分の方法について、以下のことを考慮し、IFRS第16号と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、すべてのリースを金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルによることとしました。
(1) 2007年8月に企業会計基準委員会とIASBとの間で、「会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みへの合意(東京合意)」が公表された後は、米国会計基準を参考としながらも、基本的にはIFRSと整合性を図ってきたこれまでの経緯を踏まえると、米国会計基準の考え方を採用した方がより我が国の実態に合うことが識別されない限り、基本的にはIFRSと整合性を図ることになるものと考えられること
(2) IFRS 任意適用企業を中心として、IFRS第16号と整合性を図るべきとの意見が多くなっていること
(3) 財務諸表利用者による分析においてリース費用を減価償却費と利息相当額に配分する損益計算書の調整が不要となる点及びリース負債を現在価値で計上することと整合的に損益計算書で利息相当額が計上される点で、単一の会計処理モデルの方が財務諸表利用者のニーズに適していると考えられること
(4) オペレーティング・リースの経済実態との整合性の観点からは、単一の会計処理モデルと2区分の会計処理モデルのいずれが適切かについて、優劣はつけられないものと考えられること
(5) 単一の会計処理モデルを採用した場合と2区分の会計処理モデルを採用した場合を比較したとき、いずれの場合に適用上のコストが小さいかどうかについて、多様な意見が聞かれたこと