資産除去債務の算定について

資産除去債務の会計処理におけるポイントの一つとなるのが、資産負債両建処理を行う際の金額算定です。

今回のコラムでは、この資産除去債務算定のポイントについて解説していきたいと思います。

1.資産除去債務を合理的に見積ることができない場合について

算定の論点に入る前に、例外的なケースとして資産除去債務を合理的に見積ることができないケースの紹介をしていきます。

資産除去債務の履行時期を予測することや、将来の最終的な除去費用を見積ることが困難であるため、合理的に資産除去債務を算定できない場合があり、これは基準上もこうしたケースがあることが述べられています。(資産除去債務の会計基準第 5 項)

この資産除去債務を合理的に見積ることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合をいいます。このような場合には、計上することができない代わりに会計基準第 16 項(5)に定める一定の注記を行わなければなりません。

2.資産除去債務に対応する除去費用の計上

資産除去債務を負債として計上する際、当該除去債務に対応する除去費用はどのように会計処理するのでしょうか。

現行の日本基準では、債務として負担している金額を負債計上し、同額を有形固定資産の取得原価に反映させる両建処理を行うこととなっています。このような資産負債の両建処理は、有形固定資産の取得に付随して生じる除去費用の未払の債務を負債として計上すると同時に、対応する除去費用を当該有形固定資産の取得原価に含めることにより、当該資産への投資について回収すべき額を引き上げることを意味しています。

すなわち、有形固定資産の除去時に不可避的に生じる支出額を付随費用と同様に取得原価に加えた上で費用配分を行い、さらに、資産効率の観点からも有用と考えられる情報を提供するものです。

ちなみに、資産除去債務に対応する除去費用を、当該資産除去債務の負債計上額と同額の資産として計上する方法として、当該除去費用の資産計上額が有形固定資産の稼動等にとって必要な除去サービスの享受等に関する何らかの権利に相当するという考え方や、将来提供される除去サービスの前払い(長期前払費用)としての性格を有するという考え方から、資産除去債務に関連する有形固定資産とは区別して把握し、別の資産として計上する方法も考えられました。


しかし、この除去費用は、法律上の権利ではなく財産的価値もなく、また、独立して収益獲得に貢献するものではありません。

したがって、現行基準は別の資産として計上する方法は採用せず、除去費用については、有形固定資産の稼動にとって不可欠なものとして、有形固定資産の取得に関する付随費用と同様に処理しています。

資産除去債務に対応する金額を有形固定資産の取得原価に含めて資産計上する場合、実務上の負担等を勘案すると、関連する有形固定資産と区分して別の資産として管理することは妨げられませんが、その場合でも、財務諸表上は、有形固定資産として表示する点には留意が必要です。

3.割引前将来キャッシュ・フローの見積りにあたっての留意点

企業は、次のような情報を基礎として、自己の支出見積りとしての有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積ることとなります。


(1) 対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な処理作業に対する価格の見積り
(2) 対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額から控除された当該資産に係る除去費用の算定の基礎となった数値
(3) 過去において類似の資産について発生した除去費用の実績
(4) 当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積られた除去費用
(5) 有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)を行う業者など第三者からの情報

企業は、(1)から(5)により見積られた金額に、インフレ率や見積値から乖離するリスクを勘案して将来キャッシュフローを算定します。

また、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき、技術革新などによる影響額を見積ることができる場合には、これを反映させる必要があります。


なお、多数の有形固定資産について同種の資産除去債務が生じている場合には、個々の有形固定資産に係る資産除去債務の重要性の判断に基づき、有形固定資産をその種類や場所等に基づいて集約し、概括的に見積ることができます。

また、将来キャッシュ・フローの見積りには、法人税等の影響額を含めないこと、資産除去債務が負債に計上されている場合には、除去費用部分の影響を二重に認識しないようにするため、将来キャッシュ・フローの見積りに除去費用部分を含めないことには留意が必要です。