会計方針及び会計方針の変更の定義について
前回に引き続き、企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を中心に会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積の変更等ついての解説をしていきたいと思います。
今回は、会計方針及び会計方針の変更の用語の定義と、それらの定義が固まるまでになされた議論についてです。
1.過去の定義と海外における議論
我が国において会計方針とは、これまで一般に、財務諸表作成にあたって採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項を指すとされていました。
すなわち、会計処理の原則及び手続のみならず、表示方法を包括する概念であるとされていました。
一方、 国際財務報告基準では、IAS 第 8 号において、会計方針とは、企業が財務諸表を作成及び表示するにあたって適用する特定の原則、基礎、慣行、規則及び実務をいうとされており、財務諸表の表示の全般的な定め(表示の継続性に関する定めを含む。)については、別途 IAS 第 1 号で扱われている。このため、国際財務報告基準では、会計方針には表示方法のすべてが含まれているわけではないと考えられています。
また、米国会計基準では、FASB-ASC の Topic235「財務諸表に対する注記」において、会計方針とは、一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して、企業の財政状態、キャッシュ・フロー及び経営成績の真実な表示を行うために最も適切であると経営者が判断し、それゆえ財務諸表を作成するために採用された特定の会計原則及び当該会計原則の適用方法をいうとされており、国際財務報告基準と同様、表示方法が包括的に含まれているものではないと考えられます。
2.会計方針の変更と表示方法の変更
企業会計基準委員会では、国際的な会計基準とのコンバージェンスを踏まえた遡及処理の考え方を導入するにあたり、会計方針の定義について、国際的な会計基準を参考に、表示方法を切り離して定義するか否かが検討されました。
これについては、我が国の従来の会計方針の定義を変更しなくても、その中で会計処理の原則及び手続と表示方法とに分け、それぞれに取扱いを定めることで対応すれば足りるのではないかという意見が出たようです。
一方で、国際的な会計基準も参考に、会計方針と表示方法の定義を見直すべきであるとの意見も出ました。
検討の結果、会計上の取扱いが異なるものは、別々に定義することが適当であると考えられることから、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点も踏まえて、企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』においては、会計方針と表示方法とを別々に定義した上で、それぞれについての取扱いを定めることとしました。
3.会計上の見積り及び会計上の見積りの変更
企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』が制定され迄、日本の会計基準において会計上の見積り及び会計上の見積りの変更を定義したものはありませんでした。※
※監査上の取扱いとしては、日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書第 26 号「監査実務指針の体系」の「[付録 2]用語集」の中で、「会計上の見積りとは、将来事象の結果に依存するために金額が確定できない場合、又は既に発生している事象に関する情報を適時にあるいは経済的に入手できないために金額が確定できない場合において、当該金額の概算額を算出することをいう」とされており、また、会計上の見積りの変更については、監査委員会報告第 77 号において、「過去に特定の会計事象等の数値・金額が会計処理を行う時点では確定できないため、見積りを基礎として会計処理していた場合において、損益への影響が発生する見積りの見直しをいう」とされていました。
一方、国際的な会計基準では、会計上の見積りの定義は定められていないものの、会計上の見積りの変更については、定義が設けられている。国際財務報告基準では、IAS 第 8 号において、会計上の見積りの変更は、資産及び負債の現在の状況の評価の結果行われる、または資産及び負債に関連して予測される将来の便益及び義務の評価の結果行われる、それらの帳簿価額の修正又は資産の期間ごとの消費額の修正をいうとされ、これは新しい情報や事業展開から生じるものであり、誤謬の訂正ではないものとされていました。
また、米国会計基準では FASB-ASC Topic250 において、会計上の見積りの変更は、既存の資産又は負債の帳簿価額に影響を及ぼす変更や、既存又は将来の資産若しくは負債についての将来の会計処理に影響を及ぼす変更であるとされている。つまり、資産及び負債に関する現在の状況並びに予測される将来の便益及び義務を評価し、これに関連して期間ごとの財務諸表の表示を行ったことの必然の結果であり、新しい情報からもたらされた結果であるとされていました。
これらの検討の結果、国際的な会計基準とのコンバージェンスを踏まえた会計上の変更に関する包括的な取扱いを定めるにあたり、会計上の見積りとその変更の定義についても、国際的な会計基準も参考に見直しを行うこととされました。
会計上の見積りとその変更の定義については、基本的には従来の日本における考え方を踏襲するものであり、従来の実務(注記による開示も含む。)に変更をもたらすものではないとされました。
なお、この会計上の見積りの変更の事例としては、有形固定資産に関する減価償却期間(耐用年数)について、生産性向上のための合理化や改善策が策定された結果、従来の減価償却期間と使用可能予測期間との乖離が明らかとなったことに伴う、新たな耐用年数を採用した場合などが考えられます。