評価技法についての詳細な解説

引き続き、時価基準と適用指針の解説をしていきたいと思います。

今回は、時価の算定方法としての評価技法についての解説です。

1.当初認識後の補正

取引価格が当初認識時の時価であり、当初認識より後における時価を算定するために観察できないインプットを使用する評価技法が用いられる場合には、当初認識時において評価技法を用いた結果が取引価格と同一となるように、評価技法を補正する必要があると考えられます。


【現在価値技法について】

インカム・アプローチには、現在価値技法が含まれます。現在価値技法にはさまざまありますが、どのような方法を用いるかは、対象となる資産又は負債に固有の事実及び状況や十分なデータが利用できるかどうかによりますので一概には言えません。

また、時価の算定に現在価値技法を用いるにあたっては、次の点について留意することが必要です。


(1) 市場参加者の観点から算定日における次の要素のすべてを考慮する。
① 対象となる資産又は負債の将来キャッシュ・フローの見積り
② キャッシュ・フローに固有の不確実性を表すキャッシュ・フローの金額及び時期の変動の可能性についての予想
③ 貨幣の時間価値(信用リスクフリーレート)
④ キャッシュ・フローに固有の不確実性を負担するための対価(リスク・プレミアム)
⑤ その状況において市場参加者が考慮に入れる他の要素
⑥ 負債については、負債の不履行リスク


(2) 現在価値技法の使用における一般的な原則

① キャッシュ・フロー及び割引率は、市場参加者が資産及び負債の時価を算定する際に用いる仮定を反映する。
② キャッシュ・フロー及び割引率は、対象となる資産又は負債に起因する要因のみを考慮する。
③ リスク要因の影響を二重に計算しないように又はリスク要因の影響が除かれないように、割引率はキャッシュ・フローに固有の仮定と整合する仮定を反映する。
例えば、貸付金のキャッシュ・フローとして契約上のキャッシュ・フローを用いる場合には、割引率は将来の債務不履行に関する予想を反映する(割引率調整法)。

④一方、期待キャッシュ・フローを用いる場合には、当該期待キャッシュ・フローに将来の債務不履行に関する不確実性に係る仮定が既に反映されているため、割引率調整法と同じ割引率ではなく、当該期待キャッシュ・フローに固有のリスクと整合的な割引率を用いる(期待現在価値法)。
⑤ キャッシュ・フロー及び割引率に関する仮定は、相互に整合的なものとする。
⑥ 割引率は、キャッシュ・フローが表示される通貨の基礎的な経済的要因と整合したものとする。


(3) 現在価値技法においては、キャッシュ・フローの見積りに不確実性が存在するため、市場参加者がキャッシュ・フローに固有の不確実性に対する対価として要求する金額を反映するリスク・プレミアムを含める。適切なリスク・プレミアムの決定に関する困難さの度合いのみでは、リスク・プレミアムを含めない十分な根拠とはならない。


(4) 現在価値技法は、リスクの調整方法及び用いるキャッシュ・フローの種類に応じて変更する。
① 割引率調整法
リスク調整後の割引率と、契約上の若しくは約束された、又は最も可能性の高いキャッシュ・フローを用いる方法


② 期待現在価値法(確実性等価法)
リスク調整後の期待キャッシュ・フローと信用リスクフリーレートを用いる方法

③ 期待現在価値法(リスク調整法)
リスク調整を行わない期待キャッシュ・フローと、市場参加者が要求するリスク・プレミアムを含めるように調整した割引率(①で用いる割引率とは異なる。)を用いる方法


(5) (4)①の割引率調整法は、発生し得ると考えられる単一のキャッシュ・フローを用いる方法であり、当該キャッシュ・フローは特定の事象の発生を条件とする(例えば、債務者の債務不履行が発生しないことを条件とする。)。
また、割引率調整法で用いる割引率は、市場で取引されている類似の資産又は負債についての観察可能な利回りから算出する。当該割引率の算出にあたって、資産又は負債が類似のものかどうかを判断する際には、次の要因を考慮する。
① キャッシュ・フローの性質(例えば、キャッシュ・フローが契約上のものであるのか、経済状況の変化に同様に反応するのか等)
② その他の要因(例えば、信用度、担保、デュレーション、制限条項、流動性等)
なお、単一の類似の資産又は負債が、時価の算定対象となる資産又は負債のキャッシュ・フローに固有のリスクを適切に反映していない場合には、複数の類似の資産又は負債に関するデータについて、信用リスクのないイールド・カーブを用いて割引率を算出することができる可能性がある。


(6) (4)②及び③の期待現在価値法は、将来キャッシュ・フローの見積りに期待値を用いる方法であり、当該キャッシュ・フローは、発生し得るすべてのキャッシュ・フローが確率加重されているものであるため、特定の事象の発生を条件とするものではない。
その方法としては、次の確実性等価法とリスク調整法があるが、理論上は同じ算定結果となるものであり、時価の算定対象となる資産又は負債に固有の事実と状況及び入手できる情報等を勘案して、次のいずれかの方法を選択する。


① 確実性等価法は、特定の資産又は負債に固有のものではない市場におけるリスクを期待キャッシュ・フローに反映するように調整し、そのリスク調整後の期待キャッシュ・フロー(確実性等価キャッシュ・フロー)を信用リスクフリーレートで割り引くことにより、現在価値を算定する方法。なお、確実性等価キャッシュ・フローとは、期待キャッシュ・フローと交換することが市場参加者にとって無差別となるような確実に得られるキャッシュ・フローである。


② リスク調整法は、特定の資産又は負債に固有のものではない市場におけるリスクを信用リスクフリーレートに加算して割引率を算定し、将来キャッシュ・フローの期待値を当該割引率で割り引くことにより、現在価値を算定する方法。
割引率は、リスク資産の価格算定モデルを用いて見積ることができる。なお、当該割引率は、特定の事象の発生を条件とするキャッシュ・フローに対応する割引率ではないため、割引率調整法における特定の事象の発生を条件とするキャッシュ・フローに対応する割引率より、通常、小さくなる。