金融商品の時価注記に関する考察①

金融商品基準は、コンバージェンスが唱えられるようになって以来、もっとも大きな変化をした基準ではないでしょうか。

その開示範囲や注記事項などが年々拡大しているため、有価証券報告書などは、作成側としても監査においてチェックをする側としても非常に注意をしなければならない項目となっています。

今回は、一連の時価注記改正の流れも踏まえつつ、金融商品とその時価注記について解説していきたいと思います。

1.時価評価開示充実の背景

コンバージェンス以降、金融資産については、時価評価を基本としつつその属性及び保有目的に応じた会計処理が定められてきました。

また、有価証券やデリバティブ取引の時価等の開示も積極的に行われてきています。

さらに、金融取引を巡る環境が変化する中で、金融商品の時価情報に対するニーズ が拡大していること等を踏まえ、平成 20 年に改正された金融商品会計基準では、金融商品の状況やその時価等に関する事項の開示の充実が図られました。

また、2019年の改正適用指針では、国際的な会計基準における公正価値に関する開示(IFRS 第 13 号「公正価値測定」)、米国会計基準においては Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会による会計基準のコード化体系)の Topic 820「公正価値測定」)との整合性を図ることを目的に、充実が図られました。

具体的には、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項 の開示の指針が定められ、開示する企業側はこれにしたがった有価証券報告書等の作成が求められるようになりました。

2.時価の開示範囲

2008 年(平成 20 年)の改正会計基準において、時価に関する事項の開示対象は金融商品 のすべてに拡大されました。

そして、その開示範囲について、貸付金・借入金等の金銭債 権債務を含む金融商品全体を対象とした上で、金融商品会計基準等の対象外である保険契 約や退職給付債務については、時価開示に関しても対象外とすることとしました。

借入金などの金銭債務の時価情報の注記については、特に当該金銭債務を負っている企業自身の信用リスクが増加した場合にその時価が減少するため、投資者にとって有用な情 報を提供することにはならないのではないかという見方もありましたが、金銭債務の時価を注記することは当該時価を財務諸表に反映することとは異なること、また、当該 企業の資金調達活動の一端を外部に示すこととなるため意義があるという意見があること、さらに、国際的な会計基準では開示するとしていることから、2008 年(平成 20 年) 改正会計基準において、金銭債権のみならず金銭債務の時価も開示対象とすることとされたという経緯があります。

3.非金融商品の時価開示について

非金融商品の時価は金融商品以上に客観的な時価の算定を行うことが困難な場合が多く、また、市場の平均である時価を超える成果を期待して事業に使われているのが普通です。

したがって、非金融商品の時価については開示対象とはされていません。

一方で、情報としての有用性は高いものであり、その注記を妨げるもの ではありません。

4.金融商品の状況に関する事項の注記

平成 20 年改正以前も、デリバティブ取引については、取引に係るリスクの内容やリスク管理体制などの取引の状況が開示されてきましたが、平成 20 年改正会計基準では、これらは金融商品全般に拡大され、金融商品に対する取組方針、金融商品の内容及びそのリスク、金融商品 に係るリスク管理体制など、「金融商品の状況に関する事項」を開示することとされました。

(留意点)

  1. 金融商品に係る信用リスクが、ある企業集団、業種や地域などに著しく集中している場合には、財務諸表に対する潜在的な影響を考慮して、その概要を記載する必要がある。
  2. その場合、そのリスク管理体制についても記載する必要がある。
  3. 金融商品に係る信用リスクが著しく集中している場合としては、個々の取引相手に対する金融商品の金額に重要性があるときのほか、金融商品に係る複数の取引相手が類似の活動をしていたり類似の特性を有することにより、ある経済的な変化によって、その債務の履行が同じような影響を受け、当該取引相手に対する金融商品の金額に重要性があるときも該当する。
  4. 企業は、 大口与信先のほか、内部管理における業種や地域別の与信額などを踏まえて、金融商品に 係る信用リスクが著しく集中しているかどうか適切に判断する必要がある。 また、借入金等の金融負債が、特定の企業又は企業集団に著しく集中している場合には、 資金調達に係る流動性リスクが高いという見方もあるため、その概要を記載することが望ましい。
  5. 国際財務報告基準では、ある企業集団、業種や地域などへの著しい集中に関する 注記に加えて、金融商品に係る信用リスクに関して、貸借対照表日現在の最大信用リスク、 担保等の信用補完の状況、期日経過又は減損の発生状況等に関する事項の注記を求めていることを勘案し、金融商品に係る信用リスクに関する定量的情報として、信用リスクが著しく集中している場合の注記や、当該リスクに関連し得る情報として、金融資産の貸借対照表計上額、有価証券の減損処理額の注記を求められる。