金融商品の時価注記に関する考察④

前回は、金融商品の時価注記について言及しました。

金融商品の時価注記の導入により、投資家への情報開示が充実した反面、経理の実務負担はかなり大きくなり、議論を呼んでいる実態もあります。

こうした議論についてさらに考察を深めるためにも、ここで改めて金融商品の時価注記の必要性について解説をしていきたいと思います。

1.契約資産の時価注記

金融商品の時価注記は明瞭性を高めることのほか、重要性を加味したもので、貸借対照表上、「その他」に含められている項目の開示を 妨げるものではありません。

一方で、2018 年に公表された企業会計基準第 29 号「収益認識に関する会計基準」において「契約資産を金銭債権として取り扱う」としていた定めは、2020 年改正適用指針と同時に改正された収益認識会計基準において削除されているので、契約資産についての時価等に関する事項の注記は不要であると考えらます。

2.収益認識基準と時価注記

収益認識会計基準第 79 項においては、契約資産を適切な科目をもって貸借対照表に表示するとされています。一方で、貸借対照表において契約資産を顧客との契約から生じた債権等の金融資産と区分して表示しないことも認められています。

このように契約資産を、顧客との契約から生じた債権等の金融資産と貸借対照表において区分して表示していない場合、これまで我が国で行われてきた実務等を考慮し、当該貸借対照表の科目について、貸借対照表計上額、 貸借対照表日における時価及びその差額を注記することとしました。

ただしこれは、当該貸借対照表の科目のうち、契約資産を除く顧客との契約から生じた債権等の金融資産について、貸借対照表計上額、貸借対照表日における時価及びその差額を注記することも妨げるものではありません。

4.時価の定義と時価開示の関係

2019 年改正会計基準において、金融商品会計基準第 6 項が改正され、時価とは、算定 日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における 資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格と定義されました。

この『時価』は、時価算定会計基準第 5 項で定義されており、適用する際の指針は企業会計基準適用指針第 31 号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」を参照するのがよいでしょう。

企業会計基準適用指針第 19 号『金融商品の時価等の開示に関する適用指針』では、これらを踏まえ、時価は金融商品会計基準等に定める時価に基づいて算定するものとされています。

なお、開示にあたっての時価の算定においては、委託手数料等取引に付随して発生する費用は含めないものとしている点には留意が必要です。

5.当座貸越契約及び貸出コミットメントと時価注記

当座貸越契約及び貸出コミットメントは、金融商品会計基準等の対象であり、貸手である金融機関等は、その旨及び極度額又は貸出コミットメントの額から借手の実行残高を差し引いた額を注記することとされています。

また借手においては、その旨及び借入枠から実行残高を差し引いた額を注記するのが望ましいとされています。

原則 として貸借対照表の科目ごとに時価の開示を行うことになりますが、貸借対照表に計上さ れていない場合であっても、当座貸越契約及び貸出コミットメントの注記額が資産の総額に対して重要な割合を占め、かつ、契約で示された固定利率で実行される際の時価に重要性がある場合には、その時価を注記することが適当であると考えられます。

6.債務保証と時価注記

信用状による与信を含む債務保証契約は、金融商品会計基準等の対象です。

保証先ごとに総額で注記するため、貸借対照表に計上されていない場合であっても、その注記額が資産の総額に対して重要な割合を占め、かつ、その時価に重要性がある場合には、その時価を注記することが適当であると考えられます。

7.ファイナンス・リース取引と時価注記

ファイナンス・リース取引により認識されたリース債権又はリース債務は、金融資産又は金融負債であり、時価開示の対象となる。

また、貸手において、所有権移転外ファイナ ンス・リース取引で資産に計上されることとなるリース投資資産は、リース料債権(将来のリース料を収受する権利であり、残価保証額を含む。)と見積残存価額(リース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証のない額)から構成される複合的な資産ですが、このうち前者のリース料債権に係る部分については、金融商品的な性格を有すると考えられますから、当該リース料債権に係る部分についても、金融資産の時価開示の対象とすることが適当です。

ただし、ファイナンス・リース取引の借手においてリース資産総額に重要性が乏しいと認められる場合及び、貸手としての リース取引に重要性が乏しいと認められる場合には、貸借対照表上、当該資産又は負債を示す名称を付した科目をもって掲記していても、 金融商品会計基準等の適用にあたり重要性が乏しいと認め、注記をしないことができます。

なお、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合において通常の賃貸借取引 に係る方法に準じて会計処理を行っている場合には、リース債権又はリース投資資産とリース債務は計上さ れていませんから、時価注記の対象外となります。