金融商品の時価注記に関する考察⑤

前回に引き続き、時価注記の解説をしていきたいと思います。

今回は、前回のリース取引の論点に加え、有価証券と時価注記の関係性についてお話させていただきます。

1.ファイナンス・リース取引と時価注記の関係について

リース取引開始日がリース会計基準適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・ リース取引についても、リース会計基準及びリース会計適用指針に定める方法により会計処理をすることになりますが、借手はリース会計基準適用初年度の前年度末における未経過リース料残高を リース債務に計上することができるものとされています。

こうした場合でも、原則として、当該リース債務は時価開示の対象となります。

一方、貸借対照表計上額となるリース債務には利息相当額が含まれているため、貸借対照表計上額と貸借対照表日における時価との間に重要な差額がある場合には、その旨を示すことが適当であると考えられます。

同様に、貸手はリース会計基準適用初年度の前年度末における固定資産の適正な帳簿価額(減価償却累計額控除後)をリース投資資産の期首の価額として計上する ことができるものとされており、リース投資資産の貸借対照表計上額は元本回収予定額と異なるため、貸借対照表日において、その時価 との間に重要な差額がある場合には、その旨を示すことが適当であると考えられます。

なお、リース取引開始日が会計基準適用初年度開始前のリース取引で、リース会計基準に基づき所有権移転外ファイナンス・リース取引と判定されたものについては、引き続き通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用することができるものとされています。

この場合、リース債権又はリース投資資産とリース債務は計上されておらず、引き続き通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を適用している旨を示すこととなりますから、時価注記の対象外となります。

2.有価証券に関する注記

これまで有価証券については、保有目的ごとの区分に応じ、貸借対照表計上額や時価にくわえ、売却額や売却損益などの開示が行われてきました。

平成 20 年改正会計基準の適用後においても、原則として、これらの注記事項を引き継ぐというのが基本的な考え方となります。

①満期保有目的の債券の時価及びその他有価証券の取得原価又は償却原価と貸借対照表計上額との差額を注記するにあたっては、評価差額の状況を明確に開示するため、当該有価証券を貸借対照表日における時価又は取得原価若しくは償却原価が貸借対照表日における貸借対照表計上額を超えるものと、超えないものに区分することとしています。

満期保有目的の債券は、満期まで保有することを目的としているものであり、その売却には特別の事情が想定されるため、期中に売却したものがある場合には、債券の種類ごとの売却原価、売却額、売却損益及び売却の理由を注記することとされています。

②その他有価証券は、売却することも想定されていますが、その売却は損益に重要な影響を与える場合も少なくないことなどから、期中に売却したものがある場合には、 売却額、売却益の合計額及び売却損の合計額を注記することとされています。

③子会社株式及び関連会社株式の会計処理は、事業投資と同じく時価の変動を財務活動の成果とは捉えないという考え方に基づくため、その時価の開示は意義が乏しいという意見もあります。

一方で時価の変動は財務活動の成果とは捉えられなくとも、その時価自体の開示を否定するには至らないという考え方も優勢であり、結論としては個別財務諸表においてのみ注記することとされています。

3.減損とデリバティブ

有価証券の時価情報の開示にあたって、当期中に有価証券の減損処理を行った場合には、減損処理を行った旨及び減損処理額を注記している場合が多いと思われます。特に、その他 有価証券の取得原価又は償却原価については、減損処理後の帳簿価額を記載することから、 そのような注記が行われている事例が多くあります。

デリバティブについては平成 9 年3 月期以降、デリバティブ取引の内容、取組方針、リ スク管理体制等の定性的な情報の開示に加え、デリバティブ取引全般について、契約額又は契約において定められた元本相当額及び時価等の定量的な情報が開示されてきました。

デリバティブ取引に係る定量的な情報開示については、次のような考え方がありますので、ここで紹介しておきます。

(1) デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分した上で、 ヘッジ会計が適用されていないデリバティブ取引に係る契約額及び時価のみを開示する。

(2) デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分した上で、 契約額についてはそれぞれに区分して開示し、時価についてはヘッジ会計が適用され ていないもののみを開示する。

(3) デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分した上で、 契約額及び時価についてそれぞれに区分して開示する。

(4) デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分しないで、 全取引を契約額及び時価に係る開示の対象とした上で、ヘッジ効果のあるものについ てはその内容を注記する。