金融商品の時価注記に関する考察⑥

引き続き、金融商品の時価注記について解説していきたいと思います。

今回は前回のデリバティブの続きからお話していきます。

1.デリバティブと時価注記

平成 11 年1 月に企業会計審議会から「金融商品に係る会計基準」が公表される前は、ヘッジ会計に係る取扱いが明確 ではなかったことから、外貨建金銭債権債務等に振り当てることとされていた為替予約等 のデリバティブ取引を除き、『デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分しないで、全取引を契約額及び時価に係る開示の対象とした上で、ヘッジ効果のあるものについてはその内容を注記する。』という考え方が採られていました。

しかし平成 11 年会計基準の公表後、ヘッジ会計に係る取扱いが明確化され、また、原則として、デリバティ ブ取引は時価評価されることとなった結果、従前の注記事項は簡素化され、ヘッジ会計が適 用されているものは、デリバティブ取引の時価等に関する事項から除くことができるものとされました。

これは、『デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分した上で、契約額及び時価についてそれぞれに区分して開示する』という考え方を採りつつ、『デリバティブ取引をヘッジ会計が適用されているものとそれ以外に区分した上で、ヘッジ会計が適用されていないデリバティブ取引に係る契約額及び時価のみを開示する』という考え方も認めていたも のと整理することができます。

2.ヘッジ会計と時価注記

ヘッジ会計が適用されるためには、ヘッジ対象とヘッジ手段の損益が高い程度で相殺される関係又はヘッジ対象のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される関係にあることが前提となります。

常に完全な相殺や回避がなされるわけではないものの、ヘッジ会計が適用されているデリバティブ取引については、これまで時価等の開示を行わないことができるとされていました。

しかし、金融商品全体について時価の開示を拡充する流れの中で、ヘッジ会計が適用されていないデリバティブ取引とあわせ、デリバティブ取引全体の定量的な情報 開示することが適切であると考えられるようになりました。

さらに、国際的な会計基準においても、ヘッジ会計が適用されている場合でも、定量的な情報を開示することとしていることから、ヘッジ会計が適用されているデリバティブ取引についても時価等を開示することとなりました。

金利スワップの特例処理や為替予約等の振当処理においては、金利スワップや 為替予約等の取引相手とヘッジ対象の資産又は負債に係る取引相手は通常異なるため、こ れらを区分してそれぞれの時価等を開示することとなります。

しかし、金利スワップの特例処理は、金利スワップとヘッジ対象の資産又は負債を一体として、実質的に変換された条件 による債権又は債務と考える処理であるため、このような場合の金利スワップについては、ヘッジ対象と一体として当該ヘッジ対象の時価に含めて注記することができるものとされています。

また、為替予約等の振当処理についても同様の性質があり、また、この場合にはデリバティブ取引の契約期間が短期である場合が少なくないことなどから、このような為替予約等についても、ヘッジ対象と一体として当該ヘッジ対象の時価に含めて注記することができるものとされています。

なお、ヘッジ対象と一体として当該ヘッジ対象の時価に含めて注記する場合でも、デリバティブ取引の貸借対照表日における契約額又は契約において定めら れた元本相当額は開示しなければならない点に注意しましょう。

ヘッジ会計が適用されているデリバティブ取引とヘッジ会計が適用されていないデリバティブ取引を区分して開示すべきですが、同じ内容が開示されるのであれば、デリバティブ取引全体を一括して示した上で、ヘッジ会計 が適用されているデリバティブ取引に関してヘッジ会計の状況を明瞭に示すことも可能と考えられます。

3.債券とその時価注記

保有している債券等の償還期限のある有価証券から得られるキャッシュ・フ ローをある程度予測できるように、その他有価証券のうち満期があるもの及び満期保有目的の債券については、有価証券の種類ごとに、償還予定額の合計額を、例えば、1 年以内、 1 年超 5 年以内、5 年超 10 年以内、10 年超のような一定の期間に区分した金額を注記することとされています。

なおこの趣旨に照らし、金融商品全体についての定量的な情報開示の充実を図ることとした 平成 20 年改正会計基準においては、債券等の有価証券に限らず金銭債権についても、償還予定額の合計額を一定の期間に区分した金額を注記することとしました。

なお、破産更生債権等など、償還予定額が見込めず、上記区分に含めていない場合は、 その旨及び金額を別途開示することが適当と考えられます。また、トレーディング目的で保 有する金銭債権等については売買目的有価証券に準じるものとして、当該注記に含めません。