評価性引当額の注記について
前回に引き続き、『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』についての解説をしていきたいと思います。
『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』は、実務上の要請及び繰延税金資産・負債の実現が実質的に一年以内に行われないことを理由として、主に繰延税金資産/負債の表示を一年基準によって流動・固定の分類とするのではなく、固定資産または固定負債として表示するよう変更するものでした。
これ以外にも各種の変更が加えられており、特に表示の面でそれ以前からの変更がありました。
今回のテーマは評価性引当額についてです。
評価性引当額とは、将来減算一時差異が解消するときに課税所得を減少させ、税金負担額を減額すると認められる範囲でのみ計上されている繰延税金資産について、回収可能性がないことから、その減額範囲を超えると判断されて部分的に繰延税金資産から控除した金額のことを指します。
前回のコラムでも見たように、繰延税金資産に将来の税金の削減効果あると認められるためには、回収可能性があることが必要で、十分な課税所得が見込まれる場合には繰延税金資産として計上が認められるものの、十分な課税所得がないことにより回収可能性が認められないような場合があると当然に想定されますが、評価性引当額とはこうしたケースにおいて繰延税金資産とならなかった金額をいいます。
評価性引当額は、状況変化により将来の見込まれる課税所得が増加すれば回収可能性が認められますから、繰延税金資産として計上することができます。すなわち、繰延税金資産が同じ金額だけ貸借対照表に計上されていても、評価性引当額があるかないかで将来の税金費用の削減効果のポテンシャルが大きく違ってくることになります。
こうした観点からも評価性引当額の注記は重要になりますので、改めてここで説明をしていきたいと思います。
評価性引当額の内訳に関する情報
評価性引当額の内訳に関する数値情報の有用性に関して解説をしていきたいと思います。
財務諸表利用者が税効果会計に関連する注記事項を利用する場合、一般的に、税負担率の予測の観点及び繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から分析を行うと考えられるため、それぞれの観点から現状において不足している情報について検討を行う必要があります。
上記の検討の結果、財務諸表利用者が税負担率の予測の観点から分析を行う場合、一般的に、税率差異の注記により、法定実効税率と税負担率との差異のうち一過性の原因により生じたものを除いて実施することが多いと考えられるという結論になりました。
この予測にあたって、法定実効税率と税負担率との差異が大きく、かつ、税率差異の注記に「評価性引当額の増減」が記載されている場合、従来の発生原因別の注記では評価性引当額の合計額のみが記載されているため、「評価性引当額の増減」の内容の理解が困難であることから、当年度において法定実効
税率と税負担率との差異が大きい理由及び将来の税負担率に与える影響の予測が困難となっていたと考えられます。
特に、税負担率の実績と予測が乖離する原因として、税務上の繰越欠損金が生じたときに将来において課税所得が生じる見込みがないため評価性引当額を計上するケースや、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額を計上していたときに、課税所得が生じ税務上の繰越欠損金を利用したことにより評価性引当額が減少するケース等、税務上の繰越欠損金に関連することが挙げられることが多いため、当該税務上の繰越欠損金に関する評価性引当額は有用な情報となります。
また、財務諸表利用者が繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価の観点から分析を行う場合、従来の発生原因別の注記には、どの一時差異等に対する評価性引当額が計上されているのかが記載されていないため、このような評価が一部改正以前は困難となっていました。
ここで、評価性引当額を項目別に算定し記載する場合、将来減算一時差異等の各項目に係る評価性引当額については一定の仮定を置いた計算等により按分して算定せざるを得ないケースが生じると考えられるのですが、按分により算定された将来減算一時差異等の各項目に係る評価性引当額は、個々の将来減算一時差異等の解消の順序が定められていない中で、必ずしも有用な情報とはなりません。
一方、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、他の将来減算一時差異等に係る繰延税金資産よりも一般的に回収可能性に関する不確実性が高いとされているため、当該税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額は、比較的、回収可能性に関する不確実性が高い繰延税金資産の額を理解する上で有用な情報となると考えられます。
こうした実情を踏まえて、発生原因別の注記として税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、これまで発生原因別の注記に記載されていた評価性引当額の合計額について、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載することを定めることとされました。