「税効果会計に係る会計基準」の一部改正について①

今回は、平成30年2月16日と比較的最近公表された『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』についての解説をしていきたいと思います。

1.「税効果会計に係る会計基準」の一部改正の公表の経緯

税効果会計については、その導入に当たり専門委員会が設置され議論が行われましたが、当委員会の中で繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針が先行して開発されることとして、平成 27 年 12 月に、企業会計基準適用指針第 26 号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」という。)が公表されたという経緯があります。

今回紹介する『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』は、この回収可能性適用指針の公開草案を公表する前における審議の過程において、税効果会計基準及び同注解では繰延税金資産の回収可能性に関連する注記事項として、繰延税金資産の発生原因別の主な内訳等が定められているものの、財務諸表利用者から、計上されている繰延税金資産や評価性引当額の内容を十分に理解することが困難である
との意見が聞かれたことを受けて、税効果会計に関する表示及び注記事項の見直しについて検討が行われた結果公表された平成 29 年 6 月に企業会計基準公開草案第 60 号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」に修正を加えたものです。

2.改正の目的と趣旨について

今回の改正前の税効果会計基準 第三 1.では、「繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて、繰延税金資産については流動資産又は投資その他の資産として、繰延税金負債については流動負債又は固定負債として表示しなければならない。ただし、特定の資産・負債に関連しない繰越欠損金等に係る繰延税金資産については、翌期に解消される見込みの一時差異等に係るものは流動資産として、それ以外の一時差異等に係るものは投資その他の資産として表示しなければならない。」とされていました。

一方で、国際財務報告基準(IFRS)では、国際会計基準(IAS)第 1 号「財務諸表の表示」(以下「IAS 第 1 号」という。)において、繰延税金資産(負債)を財政状態計算書に表示する場合、流動資産(負債)として分類してはならないとされています。


また米国会計基準においても、平成 27 年 11 月に、FASB Accounting Standards Codificationの Topic 740「法人所得税」が改正されて、繰延税金資産又は繰延税金負債を非流動区分に表示することとされました。

ここで、回収可能性適用指針の公開草案に寄せられたコメントを契機として、財務諸表作成者の負担の観点から、国際的な会計基準と整合性を図り、繰延税金資産又は繰延税金負債をすべて非流動区分(投資その他の資産及び固定負債に分類されるものを含む。以下同じ。)に表示すべきとの意見があったことを踏まえ、流動又は非流動区分に表示する取扱いを国際的な会計基準に整合させるか否かについて、検討を行うことになりました。

まず繰延税金資産及び繰延税金負債を、これらに関連した資産及び負債の分類に基づいて流動又は非流動区分に表示するという当時の取扱いは、一時差異等に関連した資産及び負債と、その税金費用に関する資産及び負債(当該一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債)が同時に取り崩されるという特徴を踏まえており、同一の区分に表示することに一定の論拠があると考えられます。

一方で、繰延税金資産は換金性のある資産ではないことや、決算日後に税金を納付する我が国においては、1 年以内に解消される一時差異等について、1 年以内にキャッシュ・フローは生じないことを勘案すると、すべてを非流動区分に表示することにも一定の論拠があると考えられます。

また、実務上の要請として、繰延税金資産及び繰延税金負債をすべて非流動区分に表示する場合、従来のように流動又は非流動区分に分ける必要がないため、財務諸表作成者の負担は比較的軽減され、投資者にとっての有用性がそれほど高くないのであれば固定区分に統一すべきではないかとの意見もあったようです。

今のコンバージェンスの時代においては会計基準の取扱いを国際的な会計基準に整合させることは、一般的に、財務諸表の比較可能性が向上することが期待され、財務諸表利用者に一定の便益をもたらすと考えられます。

流動又は非流動区分に表示する取扱いもすべてを非流動区分に表示する取扱いも一定の論拠があることや、すべてを非流動区分に表示する場合、財務諸表作成者の負担が軽減されることに加え、我が国の東京証券取引所市場第一部に上場している企業を対象にデータ分析を行った範囲では、変更による流動比率に対する影響は限定的であり財務分析に影響が生じる企業は多くないと考えられることも勘案し、平成30年のこの改正において、繰延税金資産又は繰延税金負債の表示については国際的な会計基準に整合させ、すべてを非流動区分に表示することとされました。

なお、改正前の税効果会計基準 第三 2.では、「ただし、異なる納税主体の繰延税金資産と繰延税金負債は、原則として相殺してはならない。」とされていましたが、異なる納税主体において繰延税金資産と繰延税金負債を相殺して表示する実務は見られないと考えられることから、「原則として」という表現が削除されました。