時価算定の前提条件について

今回も、時価基準と時価開示についての解説をしていきたいと思います。

今回のテーマは、時価基準において定義される『時価』となります。時価基準や適用指針において『時価』という用語は頻繁に用いられていますが、この定義だけでなく、その前提条件や算定技法についての知識があれば、難解な基準や適用指針も非常に読みやすくなります。

1.時価の算定の前提

まず、時価の定義をおさらいします。時価基準によれば、「時価」とは


算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格

とされています。

また時価は、上記の定義に従ったうえで、次の前提に基づき算定するとされています。

(1) 資産又は負債の時価を算定するにあたっては、市場参加者が算定日において当該資産又は負債の時価を算定する際に考慮する当該資産又は負債の特性を考慮する。


(2) 対象となる資産又は負債は、現在の市場の状況を踏まえ、算定日に資産の売却又は負債の移転を行う市場参加者間の秩序ある取引において交換されるものと仮定する。

(3) 資産を売却する又は負債を移転する取引は、企業が算定日において利用できる主要な市場で行われるものと仮定する。ただし、主要な市場が存在しない場合には、企業が算定日において利用できる最も有利な市場で行われるものと仮定する。反証できる場合を除き、企業が取引を通常行っている市場が、主要な市場又は最も有利な市場と推定される。


(4) 市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる評価技法及びインプットを用いて、市場参加者が自らの経済的利益を最大化するように行動すると仮定する。

(5) 時価の算定にあたって用いる主要な市場又は最も有利な市場における価格は、取得又は売却に要する付随費用について調整しないが、所在地が資産の特性である場合には、当該資産を現在の所在地から当該市場に移動させるために生じる輸送費用について調整する。


(6) 当初認識時の時価は取引価格と同一となることが多いが、次の状況では、取引価格が当初認識時の時価を表すものではない可能性がある。


① 取引が関連当事者間の取引であること
② 取引が他から強制された取引であるか又は売手が当該取引価格を受け入れざるを得ないこと
③ 取引価格を表す単位が、時価を算定する資産又は負債の単位と異なること
④ 取引が行われた市場が、主要な市場又は最も有利な市場と異なること

2.時価の評価技法

評価技法時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法を用います。

評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることに注意しましょう。

また、時価の算定にあたって複数の評価技法を用いる場合には、複数の評価技法に基づく結果を踏まえた合理的な範囲を考慮して、時価を最もよく表す結果を決定する必要があります。

時価の算定に用いる評価技法は、継続性の原則に則り毎期継続して適用します。

評価技法又はその適用(例えば、複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けや、評価技法への調整)を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理します。

この場合、会計上の見積りの変更の注記は要しませんが、当該連結会計年度及び当該事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表において変更の旨及び変更の理由については注記する必要があります。

3.評価技法の3つのアプローチ

時価を算定するにあたって用いる評価技法には、次のような 3 つのアプローチがあります。


①マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチは、同一又は類似の資産又は負債に関する市場取引による価格等のインプットを用いる評価技法をいいます。

マーケット・アプローチには、例えば、倍率法や主に債券の時価算定に用いられるマトリックス・プライシング等が含まれます。


②インカム・アプローチ
インカム・アプローチは、利益やキャッシュ・フロー等の将来の金額に関する現在の市場の期待を割引現在価値で示す評価技法をいいます。

インカム・アプローチには、例えば、現在価値技法やオプション価格モデル等が含まれます。


(3) コスト・アプローチ
コスト・アプローチとは、資産の用役能力を再調達するために現在必要な金額に基づく評価技法をいいます。

評価技法又はその適用を変更し会計上の見積の変更として取扱う場合としては、時価の精度をより高めることとなる場合がありますが、その状況として、適用指針には次のような例示がなされていますので参考にしてみてください。


(1) 新しい市場が出現すること
(2) 新しい情報が利用可能となること
(3) これまで使用していた情報が利用できなくなること
(4) 評価技法が向上すること
(5) 市場の状況が変化すること