時価算定の前提条件について②
引き続き、時価基準と適用指針の解説をしていきたいと思います。
今回は、時価に焦点を当てて説明をしていきます。
1.時価の定義
時価を算定する目的は、現在の市場環境の下で、時価の算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格を見積ることにあります。
時価に関する会計基準では、本会計基準の定義する時価について、次の基本的な考え方を示しています。
(1) 時価の算定は、市場を基礎としたものであり、対象となる企業に固有のものではない。
(2) 時価は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格(資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格)であり、入口価格(交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格)ではない。
(3) 同一の資産又は負債の価格が観察できない場合に用いる評価技法には、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にする。
ただし、観察可能なインプット(レベル 1 のインプット及びレベル 2 のインプット)のみを使用することによっても時価を適切に算定することにはならず、観察可能なインプットを調整する必要がある状況があるため、インプットの観察可能性のみがインプットを選択する際に適用される唯一の判断規準ではなく、観察可能なインプットのうち関連性のあるものを最大限利用することとしている。
(4) 時価を算定するにあたっては、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際の仮定を用いるが、資産の保有や負債の決済又は履行に関する企業の意図は反映しない。
2.想定される市場
資産を売却する又は負債を移転する取引は、企業が算定日において利用できる主要な市場又は最も有利な市場で行われるものと仮定することとされています。
取引が行われる市場については、次の点について留意することが必要であると考えられます。
(1) 主要な市場と最も有利な市場は同一であることが多いが、資産又は負債に係る主要な市場がある場合には、他の市場における価格が有利となる可能性があるとしても、その主要な市場における価格を表すように時価を算定する。
(2) 主要な市場は、対象となる資産又は負債についての取引の数量又は頻度に基づいて判断するものであり、特定の市場における企業の取引の数量又は頻度に基づいて判断するものではない。
(3) 企業が利用できる主要な市場又は最も有利な市場は、企業自身の判断に基づき決定するため、異なる活動を行う企業間では異なる可能性があり、同様に、市場参加者も企業間で異なる可能性がある。
(4) 主要な市場又は最も有利な市場について、企業が利用可能である市場でなければならないが、当該市場での価格に基づいて時価を算定できるための条件として、算定日において特定の資産の売却又は特定の負債の移転を行えることは必要ではない。
ただし、主要な市場が存在しない場合には、企業が算定日において利用できる最も有利な市場で行われるものと仮定されます。
また、反証できる場合を除き、企業が取引を通常行っている市場が、主要な市場又は最も有利な市場と推定されます。
3.時価評価時の留意点
基準及び適用指針においては、市場参加者が資産又は負債の時価を算定する際に用いる評価技法及び
インプットを用いて、市場参加者が自らの経済的利益を最大化するように行動すると仮定することとしていますが、次の点について留意することが必要であると考えられています。
(1) 算定日現在の資産の売却又は負債の移転に係る相場価格の情報を提供する市場がない場合でも、時価の算定にあたっては、当該資産又は負債を保有する市場参加者の観点を考慮して、当該算定日に生じる取引を仮定する。
(2) 市場参加者を想定するにあたっては、具体的な市場参加者を特定する必要はないが、次の要因を考慮して想定する。
① 対象となる資産又は負債
② ①の資産又は負債に関する主要な市場又は最も有利な市場
③ ②の市場で企業が取引を行う市場参加者
時価の算定にあたって用いる主要な市場又は最も有利な市場における価格は、取得又は売却に要する付随費用について調整しないとしている(第 4 項(5)参照)。これは、取得又は売却に要する付随費用は、資産又は負債の特性ではなく、取引に固有のものであり、企業の取引の形態により異なるためである。
ただし、例えば、現物商品(コモディティ)について、その所在地が資産の特性である場合には、資産の特性(資産の所在地)を変化させる輸送費用について、主要な市場又は最も有利な市場における価格を調整することに留意する必要があります。
時価は出口価格ですので、取引価格は交換取引において資産を取得するために支払った価格又は負債を引き受けるために受け取った価格(すなわち入口価格)と同一とは限りません。
もっとも、取引日において資産を取得する取引が当該資産が売却される市場で行われる場合には、当初認識時の時価が取引価格と同一となることが多いですから、企業は、取引及び資産又は負債に固有の要因を考慮して、当初認識時の時価が取引価格と同一となるかどうかを判断する必要があると考えられます。