企業会計基準第24号の取扱い範囲

前回に引き続き、企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を中心に会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積の変更等ついての解説をしていきたいと思います。

前回のコラムでは、2020年改正について取り上げ、「経営者が会計方針を適用する過程で行った判断」に関する注記情報の充実への対応についての議論を概観しました。

この議論の中で、『我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかではなく、開示の実態も様々であるといった違いがある』という指摘を受けることとなり、検討の結果、会計処理の対象となる会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにして、財務諸表利用者にとって不可欠な情報が提供されるようにすることは有用であるという結論になったことを述べました。

また、基準諮問会議より、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実について検討するよう提言も行われ、公開草案の内容が一部修正されたうえで2020 年改正会計基準が公表されることになりました。

今回は、このような経緯で成立した現行の会計方針の変更等の基準について、取扱い範囲はどうなるのか、また個別財務諸表における適用はどうなるのか等についての解説をしていきたいと思います。

企業会計基準第24号の取扱い範囲について

国際財務報告基準では、2003 年(平成 15 年)12 月に改訂された国際会計基準(IAS)第 8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」において、会計方針の変更、会計上の見積りの変更及び誤謬の訂正を行う場合の取扱いが定められています。


米国会計基準においても、財務会計基準審議会(FASB)から 2005 年5 月に国際財務報告基準とのコンバージェンスの一環として、財務会計基準書(SFAS)第 154 号「会計上の変更及び誤謬の訂正」の Topic250「会計上の変更及び誤謬の訂正」が公表され、これらの扱いについて IAS 第 8 号と同様の内容が定められています。

また、国際的な会計基準では、過去の財務諸表の修正の一類型として表示方法の変更がありました。

具体的には、国際財務報告基準では IAS 第 1 号「財務諸表の表示」、米国会計基準ではFASBASC の Topic205「財務諸表の表示」(※)の中で、過去の財務諸表の組替えに関する取扱いが定められています。


(※)余談ですが、これは当初、米国公認会計士協会 会計手続委員会の会計調査公報(ARB)第 43 号「ARB の再説及び改訂」として公表され、一般に「FASB-ASC Topic205」の名称で知られているものです。

このため、我が国においても、会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更並びに過去の誤謬の訂正に関する会計上の取扱いを会計基準で定めることされ、これらを本会計基準で包括的に取り扱うこととしました。

なお、前回のコラムでも解説した内容ですが、2020 年改正会計基準では、企業会計原則注解の定めを引き継ぐとしているため、2020 年改正会計基準は、重要な会計方針に関する注記における従来の考え方を変更するものではないという点には留意が必要となります。

個別財務諸表における適用上の論点に関する検討

企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』は、会計上の変更及び過去の誤謬の訂正に関する会計処理及び開示について適用することとしています。

しかしながら、会計方針の変更等において、過去の財務諸表に遡及処理を求めることにより、財務諸表の期間比較可能性及び企業間の比較可能性が向上し、財務諸表の意思決定有用性を高めることができることについては、連結財務諸表に限らず、個別財務諸表についても同様と考えられるのは言うまでもありません。

一方で、個別財務諸表における適用上の問題として、連結財務諸表を併せて開示している場合や、非上場会社が個別財務諸表を開示している場合などについても、一律にこのような処理を求めるか否かに関しては、コスト・ベネフィットの観点から、検討が必要ではないかという指摘は当然にあり得ます。

また、国際的な会計基準では、遡及処理に関する取扱いについて、個別財務諸表のみに関する特段の取扱いは明示されているわけではないものの、これらの基準を適用している国々の開示制度が、我が国とは異なっている場合があることを考慮すべきで、直ちに国際会計基準に合わせるべきかどうかについては議論の余地があります。

こうした指摘を踏まえつつ、企業会計基準委員会において、過去の財務諸表への遡及処理を求める取扱いについて、個別財務諸表上の適用に関する特段の取扱いを設ける必要があるかどうか様々な観点から検討が行われたようです。

この点に関しては、会計方針の変更等を行った場合の過去の累積的影響額に関する当期の会計処理と、遡及処理を行った過去の財務諸表の表示の要否とに分けて検討が行われました。

(次回に続く)