時価算定の特殊ケース

引き続き、時価基準及び適用指針の解説を続けたいと思います。

今回のテーマは、取引量が著しく減少しているといった場合に基準や適用指針通りの処理をしても良いかなど、特殊ケースにおける対応について説明をしていきます。

1.資産又は負債の取引の数量又は頻度が低下している場合等の処理

資産又は負債の取引の数量又は頻度が当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合、取引価格又は相場価格が時価を表しているかどうかについて評価する必要があります。


その結果、当該取引価格又は相場価格が時価を表していないと判断する場合、取引価格又は相場価格を時価算定する基礎として用いる際には、当該取引価格又は相場価格について、市場参加者が資産又は負債のキャッシュ・フローに固有の不確実性に対する対価として求めるリスク・プレミアムに関する調整を行うことが求められます。

具体的には、資産又は負債の取引の数量又は頻度が、当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下しているかどうかについて、入手できる情報に基づき、例えば、次のような要因の重要性及び関連性を評価して判断することになります。


(1) 直近の取引が少ないこと
(2) 相場価格が現在の情報に基づいていないこと
(3) 相場価格が時期又は市場参加者間で著しく異なっていること
(4) これまで資産又は負債の時価と高い相関があった指標が相関しなくなったこと
(5) 企業の将来キャッシュ・フローの見積りと比較して、相場価格に織り込まれている流動性リスク・プレミアム等が著しく増加していること
(6) 買気配と売気配の幅が著しく拡大していること
(7) 同一又は類似の資産又は負債についての新規発行市場における取引の活動が著しく低下しているか又は当該市場がないこと
(8) 公表されている情報がほとんどないこと

2.秩序ある取引ではない取引の取扱い

同様に、資産又は負債の取引の数量又は頻度が当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合には、取引が秩序ある取引であるかどうかを判断し、取引が秩序ある取引であるかどうかに応じて、次のとおり時価の算定又はリスクに関する調整を行うことになります。

この場合の留意点は下記となります。


(1) 取引が秩序ある取引ではない(例えば、強制された清算取引や投売り)と判断したときには、取引価格は他の入手できるインプットほどには考慮する必要はありません。

(2) 取引が秩序ある取引であると判断したときには、時価の算定にあたって、取引価格を考慮することになりますが、その考慮する程度は状況により異なります。

具体的には、


① 当該取引の数量
② 当該取引を時価の算定対象となる資産又は負債に当てはめることが適切であるか
③ 当該取引が時価の算定日に近い時点で行われたか

を考慮して決定することになります。


(3) 取引が秩序ある取引であるかどうかを判断するために十分な情報を入手できないときには、取引価格が時価を表さない可能性を踏まえたうえで、取引価格を考慮する必要があります。

3.第三者から入手した相場価格の利用

取引相手の金融機関、ブローカー、情報ベンダー等、第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断する場合には、当該価格を時価の算定に用いることができます。


資産又は負債の取引の数量又は頻度が当該資産又は負債に係る通常の市場における活動に比して著しく低下していると判断した場合には、第三者から入手した相場価格が秩序ある取引を反映した現在の情報に基づいているかどうか又は市場参加者の仮定を反映した評価技法に基づいているかどうかを評価して、当該価格を時価の算定に考慮する程度について判断することになります。

4.負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価

負債又は払込資本を増加させる金融商品(例えば、企業結合の対価として発行される株式)については、時価の算定日に市場参加者に移転されるものと仮定して、時価を算定することになります。

時価の算定日における市場参加者への負債又は払込資本を増加させる金融商品の移転については、負債又は払込資本を増加させる金融商品の消滅が認識されることなく、市場参加者である譲受人が当該債務を履行する又は当該払込資本を増加させる金融商品に関する権利を引き継ぐと仮定して処理をします。

具体的な負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価の算定は下記のようになります。


(1) 活発な市場における相場価格
(2) (1)が入手できない場合、他の者が資産として保有する同一の項目に係る活発な市場における相場価格
(3) (1)及び(2)が入手できない場合、他の観察可能なインプット
(4) (1)から(3)が入手できない場合、インカム・アプローチ又はマーケット・アプローチ

他の者が資産として保有する同一又は類似の項目の相場価格を用いる場合には、負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価の算定に反映できない資産に固有の要素(資産の相場価格に第三者の信用補完が反映されている場合の当該信用補完など)を除外して、負債又は払込資本を増加させる金融商品の時価を算定する必要があります。

また留意点として、負債の時価の算定にあたっては、信用リスクの影響及び当該負債の履行見込みに影響を与える可能性のある要因を当該負債の時価の算定に反映すること、及び、要求払の特徴を有する金融負債(例えば、要求払預金)の時価については、要求払の額の支払が要求される可能性のある最も早い日から当該要求払の額を割り引いた金額を下回らないことが挙げられます。