会計方針の変更に関する2020年改正の概要

前回に引き続き、企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』を中心に会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積の変更等ついての解説をしていきたいと思います。

遡及処理の定義と遡及処理が盛り込まれることになるまでの概要を説明していました。

まずは今回のコラムの主要論点である2020年改正の説明に入る前に、2009年の公開草案作成までについておさらいをしていきたいと思います。

1.2009年の公開草案作成までの経緯

遡及処理が行われるまでには2001年からの長い時間をかけた議論があり、現行の企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』等につながっています。

まずは、2001年11月のテーマ協議会からの提言書においてこの遡及処理についての論点が議論されましたが、商法の制約から当時は過去の財務諸表を遡って処理することできませんでした。

一方、当時から国際的な会計基準においては、企業が自発的に会計方針の変更を行った場合は、過去の財務諸表をの遡及処理が既に求められていたため、コンバージェンスが早急に必要な状況でした。

こうした状況下で、2006 年12 月にワーキンググループが立ち上げられ、2007 年7 月に「過年度遡及修正に関する論点の整理」が、 2008 年6 月には「会計上の変更及び過去の誤謬に関する検討状況の整理」が立て続けに公表されました。

そしてついに2009 年4 月、企業会計基準公開草案第 33 号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第 32号「会計上の変更及び過去の誤謬に関する会計基準の適用指針(案)」が公表され、公開草案に対する一般公募の意見などが審議され、修正されたうえで現行の企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』への繋がっていきます。

2.2020年改正の概要について

このような経緯を経て、2020年に再度、企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』が公表されます。

前回説明した内容でもありますが、ここで遡及処理についてもう一度おさらいしてみましょう。

【遡及処理の定義】

「遡及処理」とは、遡及適用、財務諸表の組替え又は修正再表示により、過去の財務諸表を遡及的に処理することをいいます。

さて、この遡及処理をはじめとする会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積の変更についてですが、2020 年改正会計基準は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実のため、必要な改正を行ったものといえます。

これに関し、「経営者が会計方針を適用する過程で行った判断」に関する注記情報の充実への対応について、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている基準諮問会議からの依頼に基づきディスクロージャー専門委員会において検討が行われました。

この過程で、我が国の会計基準等においては、取引その他の事象又は状況に具体的に当てはまる会計基準等が存在しない場合の開示に関する会計基準上の定めが明らかではなく、開示の実態も様々であるといった違いがあるという指摘を受けることになりました。

この指摘を検討した結果、ディスクロージャー専門委員会によって基準諮問会議に対し、「会計処理の対象となる会計事象等(取引及び事象)に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続の開示上の取扱いを明らかにして、財務諸表利用者にとって不可欠な情報が提供されるようにすることは有用であると考えられる。」旨の報告が行われました。


この報告を受け、2018 年 11 月に開催された第 397 回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実について検討するよう提言が行われました。

この提言を受けて、企業会計基準委員会では 2018 年 12 月より審議を開始し、2019 年 10 月に企業会計基準公開草案第 69 号(企業会計基準第 24 号の改正案)「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(案)」を公表して広く意見を求めました。

2020 年改正会計基準は、公開草案に寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正したうえで公表するに至ったものでした。


なお、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報の充実を図るに際しては、関連する会計基準等の定めが明らかな場合におけるこれまでの実務に影響を及ぼさないために、企業会計原則注解(注 1-2)の定めを引き継ぐこととしました。

なお、2020 年改正会計基準では、第 12 項の未適用の会計基準等に関する注記に関する定めを第 22-2 項に移動しました。

この理由は以下の通りです。

未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、これまで会計方針の変更の取扱いの一部として定められていたため、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に対しては適用されないと解されていました。

しかし、この定めを独立した項目に移動することで、未適用の会計基準等に関する注記に関する定めは、既に公表されているものの、未だ適用されていない新しい会計基準等全般に適用されることを明確化することを意図したものであることが明確化されました。

なお、この移動に伴い、専ら表示及び注記事項を定めた会計基準等に関して未適用の会計基準等に関する注記を行う場合の取扱いについても明確化されました。