税務上の繰越欠損金と有報注記

税効果会計を適用するにあたって理解のポイントになるのが税務上の繰越欠損金です。

今回は、税務上の繰越欠損金と有報注記をテーマに解説をしていきたいと思いますが、そもそも税務上の繰越欠損金とは何か分からない方もいらっしゃると思います。

そこで、まずは税務上の繰越欠損金について理解をしていただき、その後、有報注記との関連性について解説をしていきたいと思います。

1.税務上の繰越欠損金とは

企業経営を行っていると好不況の波もありますから、税務上の課税所得がマイナスとなり、税務上の欠損金が生じることがあります。

税金計算は単年度主義ですから、たとえその年の課税所得がどれだけマイナスであっても

そこで、例外措置として、税務上の欠損金の発生年度の翌期以降から、法定の繰越期限切れとなるまでの期間(「繰越期間」という)に課税所得が生じた場合には、課税所得を減額することができるという規定が設けられています。

繰越欠損金は、上記の繰越規定における将来に繰り越す欠損金のことをいいます。

繰越欠損金が発生した年度以降の繰越期間においてプラスの課税所得が生じた場合には、その年度の課税所得から繰り越された欠損金を控除することにより、税金支払額を計算します。

この計算により、繰越欠損金×法定実効税率に相当する分だけ税額が減少することから、税務上の繰越欠損金は税効果会計上、一時差異に準じるものとして取り扱います。

ただし、繰越欠損金が将来の税金負担額を軽減する効果を有するのは、繰越欠損金の繰越期間に課税所得(繰越欠損金控除前)が発生することが前提となっている点には留意が必要です。

繰越欠損金に係る繰延税金資産の計上にあたっては、その後に課税所得が生じる蓋然性がどれだけあるかという回収可能性を慎重に判断する必要があります。

2.税負担率の注記

繰越欠損金はこのように直接税金額へ影響するため、実質的な税負担率が繰越欠損金の有無やその回収可能性により大きく異なる可能性があります。

税負担率の予測の観点からは、税負担率の実績と予測が乖離する原因として、税務上の繰越欠損金に関連することが挙げられることが多くあり、特に、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を計上していない場合で、当該税務上の繰越欠損金の繰越期限が到来するときに、将来の税負担率に与える影響の予測が困難となってきます。

このため、税務上の繰越欠損金の繰越期間にわたって課税所得又は税務上の欠損金が生じたときの税負担率の予測に資するように、税務上の繰越欠損金に関する数値情報として、繰越期限別に、税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額(発生原因別の注記に記載されている額)、当該税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額及び当該税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額についての注記事項を、『「税効果会計に係る会計基準」の一部改正』制定時に定めることとしました。

3.開示によりもたらされる財務諸表利用者へのメリット

この開示による財務諸表利用者のメリットが何かこの章で解説をしていきたいと思います。

まずはこの注記事項の開示によって、例えば、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を計上していない場合で、1 年以内に当該税務上の繰越欠損金の繰越期限が到来し 2 年目以降に課税所得が見込まれるときは、2 年目以降の税負担率が法定実効税率に近い値になることを予測することができるようになりました。

当時公開草案に寄せられたコメントでは、税務上の繰越欠損金に関する数値情報について、事業内容や税制、繰延税金資産の回収可能性が異なる複数の連結会社の数値が合算されているため、財務諸表利用者が税負担率の予測又は繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価を行う上で有用な情報とならないとの意見や、税務上の繰越欠損金の増減については他の開示情報からも読み取ることができる情報であるため、税務上の繰越欠損金に関する数値情報については追加すべきでないとの意見もあったようです。

しかしながら、税負担率の実績と予測が乖離する原因として、税務上の繰越欠損金に関連することが多く、財務諸表利用者が PER や DCF による分析又は債務償還年数の検証を行う上での税負担率の予測や財
務諸表利用者が自己資本比率の検証を行う上での繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価において、税務上の繰越欠損金に関する数値情報は、有用な情報となると考えられたことから、上記のような開示が行われることになりました。

また、このルール導入の副次的効果として、税務上の繰越欠損金に関する数値情報が複数の連結会社の数値が合算された情報であるとしても、財務諸表利用者は、税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由の記載や評価性引当額の変動の主な内容の記載を参照することにより、税負担率の予測や税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性に関する不確実性の評価に重要な影響を及ぼす事項については、その影響や内容について相当程度理解し得るという点も見逃すことはできません。

総合的に考えると、税務上の繰越欠損金に関する数値情報として、繰越期限別の税務上の繰越欠損金の額に納税主体ごとの法定実効税率を乗じた額、当該税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額及び当該税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の額についての注記事項の開示は非常に有用であったと結論付けて良いと思います。

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