収益認識基準における様々な論点①

新しい収益認識基準の導入以降、収益認識に関して様々な論点が加わりました。

今回は、この収益認識基準における各論点について紹介していきたいと思います。

1.追加の財又はサービスを取得するオプションの付与について

収益認識基準においては履行義務の認識が必要になりました。

このため、値引きについても履行義務との兼ね合いで正しく認識しないといけません。

適用指針では、顧客との契約において、既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合には、オプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときにのみ、そのオプションから履行義務が生じるとさだめています。

この場合には、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識することになります。

重要な権利を顧客に提供する場合というのが分かりにくいですが、例えば、追加の財又はサービスを取得するオプションにより、顧客が属する地域や市場における通常の値引きの範囲を超える値引きを顧客に提供する場合がこれに該当します。

一方で顧客が追加の財又はサービスを取得するオプションが、当該財又はサービスの独立販売価格を反映する価格で取得するものである場合は、顧客に重要な権利を提供するものではありません。

こうした場合は、既存の契約の取引価格を追加の財又はサービスに対するオプションに配分せず、顧客が当該オプションを行使した時に、当該追加の財又はサービスについて、会計基準に従って収益を認識することになります。

つまりこれらを整理すると、重要な権利に該当するようなオプションと認められるような場合はオプションそのものを履行義務と考え、オプション付与時に収益認識を行う事になる反面、重要な権利に該当しない場合は、顧客がそのオプションを行使したタイミングで収益認識、すなわちこれまでと同様に売上の控除科目として取り扱うということになります。

履行義務への取引価格の配分は、独立販売価格の比率で行うこととされており、追加の財又はサービスを取得するオプションの独立販売価格を直接観察できない場合には、オプションの行使時に顧客が得られるであろう値引きについて、次の(1)及び(2)の要素を反映して、当該オプションの独立販売価格を見積ることになります。


(1) 顧客がオプションを行使しなくても通常受けられる値引
(2) オプションが行使される可能性

なお契約更新に係るオプション等、顧客が将来において財又はサービスを取得する重要な権利を有している場合で、当該財又はサービスが契約当初の財又はサービスと類似し、かつ、当初の契約条件に従って提供される場合には、前項の定めに基づいたオプションの独立販売価格を見積らず、提供されると見込まれる財又はサービスの予想される対価に基づき、取引価格を当該提供されると見込まれる財又はサービスに配分することができます。

2.顧客により行使されない権利(非行使部分)

将来において財又はサービスを移転する履行義務については、顧客から支払を受けた時に、支払を受けた金額で契約負債を認識することになります。

財又はサービスを移転し、履行義務を充足した時点で契約負債の消滅を認識し、収益を認識するということです。

顧客から企業に返金が不要な前払いがなされた場合、将来において企業から財又はサービスを受け取る権利が顧客に付与され、企業は当該財又はサービスを移転するための準備を行う義務を負いますが、顧客は当該権利のすべては行使しない場合があります。

こうした顧客により行使されない権利を「非行使部分」といいます。

こうした「非行使部分」についてどのように処理したらよいでしょうか?

まず契約負債における非行使部分については、企業が将来において権利を得ると見込む場合に、当該非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識します。


次に契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込まない場合には、当該非行使部分の金額について、顧客が残りの権利を行使する可能性が極めて低くなった時点で収益を認識します。

契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込むかどうかを判定するにあたっては、将来の不確実性を考慮します。

顧客により行使されていない権利に係る顧客から受け取った対価については、法律により他の当事者への支払が要求される場合には、収益ではなく負債を認識します。

3.返金が不要な契約における取引開始日の顧客からの支払

契約における取引開始日又はその前後に、顧客から返金が不要な支払を受ける場合について解説します。


まずは履行義務を識別するために、当該支払が約束した財又はサービスの移転を生じさせるものか、あるいは将来の財又はサービスの移転に対するものかどうかを判断します。

前項の返金が不要な顧客からの支払が、約束した財又はサービスの移転を生じさせるものでない場合には、将来の財又はサービスの移転を生じさせるものとして、当該将来の財又はサービスを提供する時に収益を認識する。

ただし、契約更新オプションを顧客に付与する場合において、当該オプションが重要な権利を顧客に提供するものに該当するときは、当該支払について、契約更新される期間を考慮して収益を認識します。

返金が不要な顧客からの支払が、約束した財又はサービスの移転を生じさせるものである場合には、財又はサービスの移転を独立した履行義務として処理するかどうかの判断が必要です。

契約締結活動又は契約管理活動で発生するコストの一部に充当するために、返金が不要な支払を顧客に要求する場合がありますが、活動が履行義務ではない場合、履行義務の充足に係る進捗度をコストに基
づくインプット法により見積る際に、当該活動及び関連するコストの影響を除かなければなりません。