過年度遡及基準誕生の背景について

財務諸表を作成していると、会計基準が変更されたり過去の会計処理に間違いが見つかったりすることがあります。

例えば今が2023年ですが、2024年3月期に前期(2023年3月期)の財務諸表と異なる会計基準が企業会計基準委員会等からリリースされたとして、過去の数値を古い会計基準のままで開示してよいのかというのは一つの大きな議論となるでしょう。

これを整理する概念が『会計上の変更』で、その中でももっとも代表的なのが『会計方針の変更』という概念になります。(まったく同じように聞こえますが、会計上の概念として完全な別物になります。)

また、会計方針等が変更されたことと単なる誤りは別であるため、『会計上の変更』とは別に『過去の誤謬の訂正』という概念も存在します。

詳細は一連のコラムで解説しますが、この『会計上の変更』と『過去の誤謬の訂正』のセットで会計方針の変更をはじめとする一連の処理の全体像を網羅することになるので、以下、「『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』」という用語を使いますが、これは全体像を指していると理解いただければと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、これらの論点を網羅するため今回から数回にわたり、『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』についてコラムを書いていきます。

まず今回は本シリーズを開始するに当たり、過年度遡及会計基準や過年度遡及適用指針といわれる基準が導入された背景について解説をしていきたいと思います。

会計方針の変更が求められるようになった背景について

まずは歴史的背景から説明していきたいと思います。

平成21年12月4日に『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』について、企業会計基準第24号
「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(過年度遡及会計基準と一般的な言い方をすることもあります。)及び企業会計基準適用指針第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」が公表されました。

それまでの日本基準では、『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』に関連する論点は、平成11年制定の監査委員会報告第 65 号「正当な理由に基づく会計方針の変更」を参照する建付けとなっていました。

しかし、この監査委員会報告第 65 号には一つ大きな欠点がありました。

それは以下のようなものです。

会計基準や法令が改正された場合には、当然会計処理を変更することになります。

しかし、監査委員会報告第 65 号では、特定の会計処理の採用が強制される場合で、他の会計処理等を任意に選択する余地がないとき(会計基準や法令の改正が行われた場合、大半はこのケースに該当すると思われます)は、会計処理の変更自体は行われるものの、こうしたケースは複数ある会計方針から選択が行われるという状況ではないため正当な理由による会計方針の変更には該当しないという整理がなされておりました。

すなわちいわゆる過年度遡及の追加情報として取り扱われてきました。

これはすなわち、過年度遡及会計基準以前においては、会計処理に変更があっても遡及して財務諸表が修正されることもなく追加情報にこれが反映されるだけであったことを示しています。


そして、ここからが非常に難解なのですが、ここから一足飛びに過年度遡及会計基準や過年度遡及適用指針の改正に進んだわけではありません。

変化のきっかけは、平成 14 年1月の監査基準の改訂でした。

この改訂で、それまで正当な理由による会計方針の変更として取り扱われていなかった会計基準等の改正による会計処理の変更は、正当な理由による会計方針の変更に該当するとされました。

これに続いて、公認会計士協会も正当な理由による会計方針の変更についての考え方の見直しが行いました。

具体的には、監査委員会報告第 65 号「正当な理由に基づく会計方針の変更」が廃止され、これに代わる新たな実務指針として平成 15 年3月に「監査・保証実務委員会実務指針第 78 号『正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い』」が公表されました。

つまり、最初は会計ではなく監査の側から変化が起こり、それが会計に波及したという流れになります。


これらの監査側の変化を受けて、企業会計基準委員会は上述の平成 21 年 12 月に企業会計基準第 24 号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第 24 号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」の公表を行いました。

これにより、『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』に関連する監査基準、委員会報告書、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針が出そろったことになります。

以上が改正までの流れですが、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針が改正された背景として、もう一つ非常に重要な論点があります。

それがコンバージェンスです。

企業会計基準委員会が、会計基準の国際的なコンバージェンスの取組みを進めていることは有名ですが、この過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針の制定についてもこの文脈を無視することはできません。

後のコラムでも詳細に解説していくことになりますが、国際的な会計基準では現行の日本基準で定めているような会計方針の変更、表示方法の変更及び誤謬の訂正などの概念とそれに伴う過去の財務諸表の遡及処理等に関する取扱いを定めているため、コンバージェンスの観点からは監査委員会報告第 65 号「正当な理由に基づく会計方針の変更」だけが明文化した文章として存在し、遡及処理の方法が日本基準と国際的な会計基準で異なることは許容できない話だったはずです。

今回は、『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針がどのように導入されたかの経緯を解説しました。

次回以降は様々な概念についての解説をしてくので、楽しみにお待ちください。