暗号資産による相続税の物納の可否と取得加算の特例

所得税や法人税などの国税の多くは金銭による一括納付を原則とします。

これは納税者に担税力があることを前提として、課税の公平性(資産を多く持つ納税者がより有利な税制を選択できない)や国庫の安定収入などの観点から定められたルールですが、相続税については、⑴課税物件を相続財産とする資産課税である点、⑵一時に多額の納税資金を要する場合が多いことから、例外的な特例として、分割納付である「延納」、一定の相続財産で納付する「物納」の制度が設けられています。

昨今は被相続人が暗号資産を保有しており相続人が暗号資産を相続するという事例も出てきています。

今回のコラムでは、前半では、被相続人から相続した暗号資産について暗号資産による物納で相続税を納付することができるかについて、後半では、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例が暗号資産の譲渡の場合にも適用できるかについて解説をしていきたいと思います。

1.相続税の物納について

相続税において物納や延納が認められるといっても、原則である金銭一括納付に対して、これらは一定の要件をクリアした場合に限り認められる納付方法です。

相続税の物納が認められるためには、次のような要件を満たす必要があります。

① 延納によっても金銭納付が困難、かつ、困難とする金額を限度としている

② 申請財産が国内にある下記の種類の財産であり、下記の順位によっている

・第1順位:不動産・船舶・国債証券・地方債証券・上場株式等

・第2順位:非上場株式等

・第3順位:動産

③物納適格財産である(管理処分不適格財産に該当しない)

④物納申請書に物納手続関係書類を添付して、申請期限内に提出する

これらに加え税務署長による許可がある場合に物納、延納が認められます。

2.暗号資産の物納について

ここでは、暗号資産の物納が可能かどうかについて、前章の要件をもとに検証していきます。

上記の要件①にある金銭納付を困難とする金額の算定の要件ですが、延納許可限度額や物納許可限度額から換価の容易な財産の金額が除かれるという注意点があります。

換価の容易な財産の具体例として、確実に取り立てることができると認められる債権、容易に契約が解除でき解約等による負担が少ない積立金・保険金などがあります。

現時点で確定した解釈ではないものの、暗号資産が「市場性のある財産で速やかに売却等の処分をすることができるもの」として換価の容易な財産と判断される可能性はかなり高いと思われます。

また、要件②がさらに問題です。平成29年(2017年)度税制改正において順位と財産の範囲の見直しがあったのですが、現時点で暗号資産やこれに類するものは掲げられていません。

つまり、要件①で除かれる可能性が高く、さらには②でも記載がない以上、ビットコインなどの暗号資産による物納はおそらく認められないだろうと考えられます。

3.相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

このように暗号資産の物納が認められない以上、暗号資産の譲渡により相続税の支払をせざるを得ないケースがあると思われます。

では、暗号資産の譲渡においては、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例は利用できるのでしょうか。

租税特別措置法第39条に規定があるのですが、想像税には、相続または遺贈によって土地や建物等の財産を取得した個人が相続した財産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額を基準に一定の算式により計算された金額を譲渡した資産の取得費に加算することができる特例が存在します。

特例を受けることができる具体的な要件は、以下の通りです。

⑴譲渡した者が相続や遺贈により財産を取得した者であること

⑵上記の財産を取得した人に相続税が課税されていること

⑶相続または遺贈により取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること

しかし、この特例の注意点として、所得税法における所得区分のうち譲渡所得のみを対象としているというものがあります。

暗号資産の譲渡による収入の所得税法における所得区分は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得に区分されます。

暗号資産の譲渡による損益などが事業所得になる場合とは、事業所得者が、事業用資産として暗号資産を保有し決済手段として使用している場合などです。

こうした事業用途の暗号資産の決済などに伴って生じた損益については、事業に付随して生じた所得と考えられますのでその所得区分は事業所得となります。

すなわち、暗号資産の譲渡による収入は、原則として雑所得になり、例外的に事業所得等になるケースがあるということになります。

相続税の支払目的であってもこれは同様で、暗号資産の売却による収入については、譲渡所得ではなく原則として雑所得、例外的に事業所得等に該当することから、相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)の適用を受けることはできないものと考えられます。

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