表示方法の変更、会計上の見積の変更及び過去の誤謬の訂正の会計処理について

前回のコラムでは、会計方針の変更に関する論点解説を行いました。

特に大きなポイントとしては、基準等の改正により会計方針の変更が強制される場合を除き、会計方針の変更には正当な理由が必要であることと、遡及適用を行えない場合には可能な限り過去まで遡って期首残高に反映させるという点でした。

今回は、表示方法の変更、会計上の見積の変更、過去の誤謬の訂正についてどのような会計処理を行うのか解説をしていきたいと思いますが、会計方針の変更への理解をベースとした比較を行う事で理解が容易になると思いますので、前回のコラムを参考にしつつ読み進めていただければと思います。

1.表示方法の変更の会計処理について

表示方法は、いわば開示版の『会計方針の変更』と言えるもので基本的な考え方は会計方針の変更と全く一緒です。

表示方法の変更が行われる場合の例示として過年度遡及会計基準は次のようなケースを挙げていますが、実質的な内容は会計方針の変更の場合と一緒で、基準や法令の改正によって強制される場合の変更か、合理的な(正当な)理由がある場合の変更となります。


(1) 表示方法を定めた会計基準又は法令等の改正により表示方法の変更を行う場合
(2) 会計事象等を財務諸表により適切に反映するために表示方法の変更を行う場合

また、会計処理の方法も同様です。

表示方法の変更が行われた場合には、原則として新たな表示方法に従って『財務諸表の組替え』(新たな表示方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように表示を変更すること)を行います。

原則的な取扱いが実務上不可能な場合の取扱いが不可能な場合があるのも会計方針の変更と同じです。

表示方法の変更に関する原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、財務諸表の組替えが実行可能な最も古い期間から新たな表示方法を適用することになります。

2.会計上の見積の変更の会計処理について

会計上の見積りの変更が行われた場合、遡及適用や過去の誤謬の訂正のような遡及処理は行わず、該当の会計期間と将来の会計期間の両方にわたって変更された会計処理を行います。(言わずもがなですが、変更が当期のみに影響する場合は当期のみの変更となります。)

会計方針の変更等と違って遡及処理が行われない理由について以下、説明します。

会計上の見積の変更の場合には、過去に合理的な方法により見積りが行われていたとしても、その後新たな事実が発生したり、既に発生している事象について新たな情報が入手可能となったことによって会計上の見積りの変更が必要となるのが一般的です。

したがって、あくまで会計上の見積りの変更は新たに入手可能となった情報に基づくと考えられ、そうであるなら過去の見積自体はそれはそれで正しく、過去の期間の財務諸表に影響を与えるべきものではないと考えられる、というのがその理由です。

3.過去の誤謬の訂正の会計処理について

過去の誤謬の訂正の場合、財務諸表自体に誤りがあったため修正再表示(過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映すること)となります。

具体的な方法としては以下の通りです。


(1) 表示期間より前の期間に関する修正再表示による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち、最も古い期間の期首の資産、負債及び純資産の額に反映する。
(2) 表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映する。

過去の財務諸表自体を訂正するか否かという違いはありますが、表示後の数値の開示の仕方は会計方針の変更と一緒です。

また、変更が会計上の見積りの変更に該当するか、過去の誤謬の訂正に該当するかが不明な場合というのも考えられます。

このようなケースについて過年度遡及会計基準では、『存在していた不確実性の性質やその後の変化の状況及び変更に至った経緯等を踏まえて、判断する』とされており、その時々の状況に応じた個別具体的な判断が必要となります。

4.まとめ

最後にここまで勉強してきた『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』の各パターンについてまとめます。(一部はこれまでのコラムでの説明とも重複しますが、説明の便宜上ご容赦ください。)

まず遡及処理及びその下位概念の遡及適用、財務諸表の組み替え、修正再表示はそれぞれまとめると以下のような整理をすることができます。

第一に概念上は、会計上の変更(会計方針の変更ではない)と過去の誤謬の訂正の2つに分かれます。

この二つの違いとしては、過去の誤謬の訂正が、過去の財務諸表までさかのぼって過去の財務諸表そのものの変更を行うのに対して、会計上の変更は過去の財務諸表までは訂正せずに比較情報としての過去情報などを比較可能性の観点から変更する点に特徴があります。

第二に、遡及処理を行うパターンと行わないパターンがあり、会計上の見積の変更のみ遡及処理を行わないパターンとなり、会計方針の変更、表示方法の変更、過去の誤謬の訂正が遡及処理を行うパターンに分類されます。

会計方針の変更、表示方法の変更、過去の誤謬の訂正において遡及処理を行うのは比較可能性の観点からです。

一方で会計上の見積の変更は、過去の見積自体は誤りであった訳ではなく、見積方法が変更したこと自体も開示すべき事実であることから遡及処理を行わない整理となっています。

原則的処理方法
会計上の変更
 会計方針の変更遡及処理(遡及適用)
 表示方法の変更遡及処理(財務諸表の組み替え)
 会計上の見積の変更遡及処理しない
過去の誤謬の訂正遡及処理(修正再表示)

非常に複雑で用語も似ていて紛らわしいため、具体的なケースを想定するとよいでしょう。

分からなくなったらこの章のまとめに戻って何度も復習してくださいね。