暗号資産と仕入税額控除②
前回に引き続き、暗号資産を営む事業者の仕入税額控除の論点について解説をしていきたいと思います。
前回のコラムでは、仕入税額控除には原則課税と簡易課税があり、さらに原則課税には「個別対応方式」と「一括比例配分方式」があることを学びました。
原則課税の「個別対応方式」が税計算の基礎となる方法なのでこれをモデルケースとして考察していきますが、個別対応方式の場合には、売上の課税区分に対応して次の3つの区分が存在し、それぞれに処理が異なります。
- 課税売上のみに要するもの(課税売上対応)
- 非課税売上のみに要するもの(非課税売上対応)
- 課税売上と非課税売上に共通して要するもの(共通対応)
今回は具体例として、設備投資とマイニングについて考察していますが、設備投資についての仕入は消費税法上の非課税取引である暗号資産の譲渡に対応するものであるため、非課税売上対応となり仕入税額控除はできないことになります。
今回は前回の続きとして、マイニングについてはどうかを検証していきたいと思います。
1.暗号資産マイニングに係る課税仕入
暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入についてですが、同じように消費税法上の売上との対応関係に着目し判定します。
しかしながら、マイニングによる暗号資産の取得は、国税庁からの「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」にもあるとおり、所得税法上の収入金額算入、法人税法上の益金算入であり、いわゆる売上取引である取扱いが記載されていますが、消費税法上の取扱いについては記載がありません。
といっても、様々な文献に当たってみても殆どの文献や解説は、マイニングによる暗号資産の取得について消費税法上不課税売上(課税対象外・不課税取引)であるとするものが大半となっています。
その理由は、マイニングによる暗号資産の取得が消費税法上の「資産の譲渡等」に該当しないためと解説されていることが多く、少なくとも現段階ではこの判断が妥当であると考えられます。
ここで課税仕入の3区分の論点に立ち返ってみると、暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入は、不課税売上(課税対象外・不課税取引)に対応するものということになります。
不課税売上(課税対象外・不課税取引)対応の課税仕入は、消費税法基本通達にもあるとおり、「課税売上のみ」でも「非課税売上のみ」でもないので、「課税売上と非課税売上に共通して要するもの」、つまり共通対応に分類されることが一般的です。
このことから、論理的に考えるならば一見、暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入は共通対応の課税仕入であると結論付けられそうです。
しかし、一方で解説書などでは、そのほとんどが「非課税売上のみに要するもの」、つまり非課税売上対応であると結論付けているものがほとんどです。
これは、今日の暗号資産の現況が多分に影響しているものと思われます。
法定通貨のように使うもの、支払手段として使用される通貨を趣旨として当初設計された暗号資産ですが、今日の日本においては“投機目的・投資目的”がメインであり、支払手段としての使用がまだまだごく少数といった実状です。
このような現状から、マイニングにより取得した暗号資産を売却(譲渡し、その売却益(譲渡益)を目的とするケースが大方であることから、マイニングによる暗号資産の取得自体は不課税売上(課税対象外・不課税取引)であっても、その最終目的である暗号資産の譲渡や売却との対応関係を重視し、非課税売上対応である「非課税売上のみに要するもの」と判定するほうが実情にあった判断であると考えられるということのようです。
この消費税における課税仕入の3区分の分類は、判定が非常に困難であることも多く、国税不服審判所や税務訴訟などそれぞれでの判定が異なることもあるほどです。
今後、暗号資産が給与や各種経費の支払手段として使用されるような状況へと変化が生じれば、「課税売上と非課税売上に共通して要するもの」と判定されるケースも想定されると思います。
いずれにせよ、各々のケースについて個々に考慮し、慎重な判断を要する論点となります。
なお、関連する条文としては下記のようなものがありますので、ご留意ください。
(不課税取引のために要する課税仕入れの取扱い)
11-2-16 法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。
(課税仕入れ等の用途区分の判定時期)
11-2-20 個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、課税仕入れ及び保税地域から引き取った課税貨物を課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分する場合の当該区分は、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日の状況により行うこととなるのであるが、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日において、当該区分が明らかにされていない場合で、その日の属する課税期間の末日までに、当該区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分によって法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》の規定を適用することとして差し支えない。
2.結論
今回のコラムは以上となります。前回のコラムも含めた結論としては、以下のようになります。
暗号資産売買に係る設備投資の課税仕入については、「非課税売上げのみに要するもの」として取り扱われ、暗号資産のマイニングに係る設備投資の課税仕入についても、現況においては「非課税売上のみに要するもの」として取り扱われると考えます。