国外財産調書と暗号資産

日本の相続税の計算においては、国内財産と国外財産を分けて計算をし申告を行う必要があります。(原則として、当該財産を有する者の住所地で判断します。)

今回のコラムでは、相続税においてビットコインなどの暗号資産が含まれる場合の海外財産の取り扱いと、申告時に必要な申告書類について解説をしていきたいと思います。

1.相続税における海外財産に暗号資産が含まれる場合

相続税では、原則として被相続人から相続または遺贈により財産を取得した相続人に対しては国内財産・国外財産とも課税の対象となります。

そして、相続人が制限納税義務者に該当する場合には、確定申告を行うためには相続した財産が国内財産か国外財産かの判断を行う必要があります。

相続する財産が、国内または国外のいずれかに所在するかについては、相続税法第10条において定められています。

相続税法第10条によれば、国内外の判定については、財産ごとに相続・遺贈または贈与によって取得した時の現状により判定することとされています。

ビットコインをはじめとする暗号資産の所在の判定については、当該財産を有する者の住所地で国内外を判定することになります。

すなわち、住所地(居住地)が国外であれば、被相続人が保有していた暗号資産は国外財産に該当することになります。

なお、被相続人・相続人いずれも相続開始より10年以内に日本に住所を有していた場合には、無制限納税義務者に該当し、国内財産・国外財産とも相続税の対象となります。

2.国外財産調書について

ここでは、国外財産調書と暗号資産の関係性について説明をしていきたいと思います。

国外財産調書制度は、海外に一定以上の財産を保有している納税者に対し、当該納税者の財産状況を調書として税務署に提出することを義務づけた制度です。

課税から逃れるために海外に財産を移す富裕層に対する公平な課税することを目的として、平成24年度税制改正において導入されました。

一般に多額の海外財産を保有している場合、所得税の確定申告書に添付する書類として、この国外財産調書及び、財産債務調書(詳細は後述)を提出する必要があります。

日本の居住者が暗号資産の売買を行うにあたって海外の暗号資産取引所を利用している場合、国外財産調書の提出は必要なのか否か、本章ではみていきたいと思います。

結論から言いますと、その年の12月31日において5,000万円を超える国外財産を有する居住者は、所得税の確定申告書の提出義務の有無にかかわらず、国外財産調書を翌年3月15日までに所轄税務署長に提出しなければなりません。(所得税の確定申告提出義務がない場合でも国外財産調書提出が必要になる点については注意が必要でしょう。)

さて第1章でも解説したように、国外財産調書の対象となる国外財産とは「国外にある財産」であり、その判定は、相続税法第10条の規定によります。

したがって原則として、財産の種類に応じて当該財産の国内外の所在判定を行います。

3.財産債務調書

次に暗号資産と財産債務調書についてみていきたいと思います。

財産債務調書制度は、特に所得金額、資産額の大きな富裕層に対して適正に課税するために設けられている制度です。

具体的な制度内容としては、所得税の確定申告書を提出しなければならない居住者で、その年分の総所得金額が2,000万円を超え、かつ、12月31日において3億円以上の財産または1億円以上の国外転出特例対象財産(株や国債などの有価証券が代表的です)を有する場合は、財産債務調書を翌年の3月15日までに所轄税務署に提出しなければならないというものです。

ただし、国外財産調書を提出する者が同時に財産債務調書を提出する場合は、その財産債務調書には、国外財産の価額の合計額だけ記載すれば足りるとされています。

国外財産調書、及び財産債務調書に記載する価額は、その年の12月31日における「時価」または時価に準ずる「見積価額」によります。

暗号資産の価額については、2018年11月の国税庁FAQ・仮想通貨に関する税務上の取扱いについて「20 財産債務調書への仮想通貨の価額の記載方法」に記載があります。

同FAQによれば、活発な市場が存在する暗号資産については、財産債務調書を提出される方が取引を行っている暗号資産交換業者が公表するその年の12月31日における取引価格を時価とするよう記載があります。

一方で、活発な市場が存在しない暗号資産については観察可能な時価がありませんから、見積価額を記載することになります。

見積価額といってもどう算定するのか難しいと思いますが、具体的には以下のように算定された価額を用いると定められています。

  • その年の12月31日における売買実例価額(12月31日の売買実例価顔がない場合は、12月31日前の最も近い日)
  • ①がない場合は、その年の翌年1月1日から財産債務調書の提出期限までの譲渡価額
  • ①及び②がない場合は、取得価額

日本の居住者が海外の暗号資産取引所経由で取得し保有する暗号資産の所在は、所有者の住所が日本国内であることから国内財産となるため国外財産調書の対象とはなりません。

株式などの有価証券と異なり暗号資産の取引所の所在地で判定するのではないのでご注意ください。

対して、これがややこしいのですが、財産債務調書の財産の対象については、国内・国外を問いません。したがって、国外財産調書の対象にはならなかった暗号資産も対象となり得るので注意しましょう。