マイニングなど個人が設備投資した場合の仕入税額控除の暗号資産税制

暗号資産の売買も一般的になり、これによって生計を立てている個人が出てき始めているようです。

こうした人々は税務上は個人事業主として確定申告をすることになりますが、ビットコインのようなメジャーな暗号資産の売買だけでなく、マイニングによる暗号資産の取得まで事業を拡大したいと考えた場合、どのように考えたらよいでしょうか?

今回のコラムでは、個人事業主がマイニング等の設備投資を行った際の消費税法上の取り扱いについて解説をしていきたいと思います。

1.暗号資産売買取引の課税仕入れ

まずは、消費税一般について簡単に解説します。

消費税の仕入税額控除の計算方法には2つあります。原則的な方法である『原則課税』と、特例である『簡易課税』の2つです。

『原則課税』の計算方法はさらに、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」の2つの計算方式に分かれます。

「個別対応方式」の仕入税額控除の計算では、以下のように課税仕入を次の3区分に分類して計算が行われます。

⑴課税売上のみに要するもの(課税売上対応)

⑵非課税売上のみに要するもの(非課税売上対応)

⑶課税売上と非課税売上に共通して要するもの(共通対応)

※()内は通称

この3区分に分類された課税仕入の金額は、仕入税額控除の金額を構成するものと構成しないものに分けられて、それぞれ次のように計算されます。

①課税売上対応……全額仕入税額控除の対象となる

②非課税売上対応…全額仕入税額控除の対象とならない

③共通対応………課税売上割合に応じた金額が仕入税額控除の対象となる

『原則課税』による消費税の計算において、全ての経費及び購入は上記の計算方法にしたがって行われます。

今回の論点であるマイニングによる設備投資や各種経費などの課税仕入の金額が、どの区分に分類されるのかが重要な論点となります。

個人事業主が費消した費用や購入が消費税法上の売上との対応関係でどのように現行法だと解釈されるのか、次の章で見ていきたいと思います。

2.暗号資産売買用の設備投資に関する課税仕入れ

暗号資産売買用の設備投資及び暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入について、消費税の『原則課税』計算における「個別対応方式」を採用する場合について解説します。

まず暗号資産売買用の設備投資に係る課税仕入については、暗号資産の譲渡(売却)は非課税売上 (2017年7月以降)となります。

したがtって、非課税売上に対応する仕入なので『非課税売上のみに要するもの』に分類されます。

非課税売上対応であることから、暗号資産売買用の設備投資に係る課税仕入の金額は、「個別対応方式」の計算では仕入税額控除の金額を構成せず、仕入税額控除の対象となりません。

3.暗号資産マイニングに係る課税仕入

次に、暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入について解説します。

暗号資産売買用の設備投資に係る課税仕入と同様に消費税法上の売上との対応関係に着目し判定します。

マイニングによる暗号資産の取得は、国税庁からの「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」に記載があります。

これによれば、所得税法上の収入金額算入、法人税法上の益金算入であり、いわゆる売上取引である取扱いが記載されていますが、消費税法上の取扱いについては記載がありません。

しかしながら、関連する解説記事などを読む限りでは、マイニングによる暗号資産の取得は、大半の著者が消費税法上不課税売上(課税対象外・不課税取引)であると結論づけていました。

その理由は、マイニングによる暗号資産の取得が消費税法上の「資産の譲渡等」に該当しないためです。おそらく現段階ではこの判断が妥当であると思われます。

ここで課税仕入の3区分の論点に立ち返ってみると、暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入は、不課税売上(課税対象外・不課税取引)に対応するものということになります。

不課税売上(課税対象外・不課税取引)対応の課税仕入は、消費税法基本通達にもあるとおり、『課税売上のみ』でも『非課税売上のみ』でもないので、『課税売上と非課税売上に共通して要するもの』すなわち共通対応に分類されます。

このことから、暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入は共通対応の課税仕入であると考えられそうですが、現在出ている解説記事などでは、そのほとんどが『非課税売上のみに要するもの』(非課税売上対応)である記載されています。

これは、今日の暗号資産の現況が多分に影響しているものと思われます。

法定通貨のように使うもの、支払手段として使用される通貨を趣旨として当初設計された暗号資産ですが、今日の日本においては『投機目的・投資目的』がメインであり、支払手段としての使用はほとんどなされていないのが実状です。

このような現状から、マイニングにより取得した暗号資産を売却(譲渡し、その売却益(譲渡益)を目的とするケースが大方であり、マイニングによる暗号資産の取得自体は不課税売上(課税対象外・不課税取引)であっても、その最終目的である暗号資産の譲渡や売却との対応関係を重視し、非課税売上対応である『非課税売上のみに要するもの』と判定されていると思われます。

この消費税における課税仕入の3区分の分類は、判定が非常に困難であることも多く、国税不服審判所や税務訴訟などそれぞれでの判定が異なることもある専門的な論点です。

今後、暗号資産が給与や各種経費の支払手段として使用されるような状況となったりといったきっかけで課税当局の解釈が変わることもあり得ます。

『課税売上と非課税売上に共通して要するもの』と実務上判定されるケースも想定されますので、いずれにせよ決めつけること無く、各々のケースについて個々に考慮し、金額的な重要性のある場合等は必ず暗号資産税制に強い税理士に相談するようにしましょう。

4.参考条文

参考条文として、消費税基本通達11-2-16、11-2-20を以下に引用します。

(不課税取引のために要する課税仕入れの取扱い)

11-2-16 法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。

(課税仕入れ等の用途区分の判定時期)

11-2-20 個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、課税仕入れ及び保税地域から引き取った課税貨物を課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分する場合の当該区分は、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日の状況により行うこととなるのであるが、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日において、当該区分が明らかにされていない場合で、その日の属する課税期間の末日までに、当該区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分によって法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》の規定を適用することとして差し支えない。

5.結論

今回のコラムでは、暗号資産の売買やマイニング用の設備投資について、消費税の計算ではどのように取り扱われるかについて見てきました。

売買取引の増加やマイニング開始に伴い、パソコンなどのデジタル機器、通信関連機器、マイニング用の電力確保のための機材など多額に設備投資を行った場合でも、消費税が還付されることはありません。

暗号資産売買に係る設備投資の課税仕入については、『非課税売上げのみに要するもの』として取り扱われます。

暗号資産のマイニングに係る設備投資の課税仕入についても、現在の解釈においては『非課税売上のみに要するもの』として取り扱われると考えられます。