新しいリース基準と借地権の会計処理

新しいリース基準の公開草案で使用権モデルをベースとした会計処理が提案され、これまでオペレーティング・リース取引として整理されていたリースについても使用権資産とリース負債を両建てするオンバランス処理が求められるようになりました。

また、それに伴いリース取引の定義も広がりました。

ここで、実はこれまでの会計処理と齟齬をきたすといわれているのが『借地権』の会計処理です。

今回のコラムでは、新リース基準下におけるこの借地権の会計処理について見ていきたいと思います。

1.借地権とは?

借地権は、一言で言うと『建物を建てるために地代を払って他人から土地を借りる権利』です。

借地権には、旧借地権、普通借地権、定期借地権と3種類あります。

これらを理解するには、 1992年に施行された借地借家法の説明が必要です。

元々借地権は期限の定めがなく、借手が望めば永遠に更新し続けることができるというものでした。

しかし、あまりに借手の権利が強いため家主が土地などを貸したがらず、不動産の有効活用を阻害しているとの反省から、この借地借家法の改正がなされ、この改正後、期限が設けた借地権設定ができることになりました。

ただし、廃止前から残存している借地権は引き続き有効とされたため、現時点においても改正以前の借地権は存在します。これを旧借地権といいます。

なお新しい借地借家法では、借地権は普通借地権と定期借地権に区分されます。

普通借地権は、地主側に土地の返還を請求するだけの正当事由が存在しなければ、借地人が更新を望む限り契約満了時に自動的に借地契約が更新される借地権です。

定期借地権は、地主側の正当事由の有無にかかわらず、契約満了時に借地人が借地を地主に返還しなければならない借地権です。

借地権についてはもう一つ重要な話があり、借地権設定に際しては権利金の支払いが生じます。

借地権は底地といわれる土地の所有権のうち、土地を借りる権利を切り出して売買するような法律構成になっています。

そしてこの借地権の設定において、不動産の借手は借地権者となり、不動産の貸手は借地権設定者となって、借手と貸手との間で借地契約を締結することで、借地権設定者(貸手)から借地権者(借手)に借地権が移動します。

またさらに複雑なのが、この借地権は転売することも可能という点です。

この場合、借地権は(貸手は変わることなく)別の第三者から借手に移りますが、この譲渡の際に支払う借地権の譲渡対価(権利金)を「借地権の設定に係る権利金等」といいます。

借地権の権利金の会計処理はリースの公開草案発表前までは、購入価額で貸借対照表に計上され、時価が相当程度下がった場合には減損処理を行うというだけでした。

しかし、新しいリースの公開草案の中で使用権資産という概念が出てきたことで、この借地権自体が使用権資産に類似するためリース基準との整合性を図る必要が出てきたため、リース適用指針(案)にも借地権について言及されることになったという背景があります。

2.借地権の権利金についての会計処理について

借地権の権利金の会計処理について、リース適用指針(案)には下記のような記載があります。

借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行う。
ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、次の(1)又は(2)の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことができる。
(1) 本適用指針の適用前に旧借地権の設定に係る権利金等及び普通借地権の設定に係る権利金等を償却していなかった場合、本適用指針の適用初年度の期首に計上されている当該権利金等及び本適用指針の適用後に新たに計上される普通借地権の設定に係る権利金等の双方
(2) 本適用指針の適用初年度の期首に旧借地権の設定に係る権利金等及び普通借地権の設定に係る権利金等が計上されていない場合、本適用指針の適用後に新たに計上される普通借地権の設定に係る権利金等

この規定については少し読み取りが難しいのですが、まず①定期借地権の会計処理と②旧借地権及び普通借地権の会計処理のそれぞれについて定めてあるという風に読むと良いです。

どういう事かというと、⑴と⑵はどちらも旧借地権と普通借地権についての「ただし」書きなので、定期借地権については原則の記載のみが適用されます。

すなわち、適用指針(案)の文言を簡略しつつ整理すると、

定期借地権=権利金は使用権資産の取得価額に含め、リース期間で減価償却

旧借地権・定期借地権=原則は定期借地権と同様の処理を行うが、期首において未計上または未償却である場合には、例外的に減価償却しないことができる

となります。

3.権利金を使用権資産の取得価額に含む理由

借地権の権利金に関しては、権利金が高ければ賃料は安く、権利金が安ければ賃料は高くという逆相関の関係にあるのが普通です。

そして、その交渉は土地の賃貸借契約と同時に行われ、価格も両者の比較衡量で決定されます。

そのため借地権の設定に係る権利金等は、土地を使用する権利に関する支払であるという意味では、借手が貸手に対して毎月支払う賃料と相違はないものという考えを前提として会計処理が定められて言います。

そのため、権利金の支払額は原資産の使用権に対する支払に含めるとされました。

4.減価償却の会計処理の理論的背景

減価償却については前述のように、定期借地権と旧借地権または普通借地権でルールが異なります。

ただし、原則的な会計処理はどちらも同様で、権利金を使用権資産の取得価額に含め、借手のリー
ス期間の耐用年数で減価償却を行います。

これは、定期借地権の設定に係る権利金等を賃貸借契約の期間に係るコストと考えているためで、定期賃借期間の満了までの間でこの権利金の金額を回収するという趣旨でリース期間を耐用年数としています。

一方で、旧借地権及び普通借地権については、定期借地権と違って借手が借地契約を更新する権利が強く保護されています。

そのため、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等の支払は、減価しない土地の一部取得に準じて考えた方が妥当なのではないかという意見も出されたようです。

そして、減価償却を行わなくても減損を適切に行う事により権利金が過大に計上され続けることもないと考えられることから、日本の商慣行等を勘案し、旧借地権および普通借地権については一定要件のもとで減価償却を行わない処理が許容されました。