暗号資産の相続と相続税評価額
近親者の死亡などにより、被相続人から暗号資産を突然に相続したものの、手続や税務申告をどのように行えばよいか分からないといったご相談が最近増えております。
今回は、暗号資産の相続をテーマに解説をしていきたいと思います。
1.暗号資産の相続の手続
2010年代半ば頃の暗号資産の相続手続は、暗号資産交換業者によって対応がばらばらで、なかには、相続するために事前の申請が必要な場合もあり、手続きは煩雑なものだったようです。
国税庁では、利便性向上のため2018年(平成30年)4月以降、6回にわたり「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」を開催し、暗号資産交換業者を所管する金融庁や関連団体の出席も得つつ、申告手続の簡素化について検討してきました。
現在では、大まかに以下のような流れになります。
⑴相続人のうち代表者1名が暗号資産交換業者に連絡し、被相続人死亡日日現在の「残高証明書」を発行してもらう
⑵最終的に相続人の誰が暗号資産を相続するか決まった段階で、相続人の金融機関の口座に残高を返還してもらう
⑶被相続人のアカウントを閉鎖する
以下、詳細に説明します。
被相続人が暗号資産を保有していることが判明したら、まずは暗号資産交換業者に交付依頼をした相続人等に対して、暗号資産交換業者が相続発生日現在の暗号資産残高等を記載した「残高証明書」等を交付するよう依頼をします。
残高証明書が発行されるので、発行後に相続人間で話し合いを行い、最終的に誰が相続するかを決めます。
この際、税理士にお願いすると財産目録の作成から、その後の相続税の計算まで行ってくれますので、残高証明書が発行された段階で税理士に相談するのがよいと思います。
暗号資産について、相続する人が決まったら、その相続人の金融機関口座へ暗号資産を換金・入金する手続きを暗号資産交換業者が行います。暗号資産交換業者の指示にしたがい必要書類を交換業者へ提出してください。
相続税の申告・納税は、相続発生から10か月が期限です。
なお、暗号資産は価額の変動が大きく、被相続人の死亡後、10か月の間に価額が大暴落する可能性も考えられます。
その場合には、大暴落した後の暗号資産を全て売却しても、相続税が払えないことも十分あり得るので早めの手続きをするのが良いと思います。
2.暗号資産の相続税評価額について
前章のような形で暗号資産の相続手続が行われるわけですが、その場合に気になるのが相続税の税額です。
相続の結果、暗号資産の価値以上の税金が発生したといったケースもあったと聞きます。暗号資産の相続税評価額は実際どのように計算するのでしょうか?
相続税とはそもそも、死亡した人の財産を相続や遺贈によって取得した場合に、その取得した財産を対象として課税するものです。
相続財産となるものは、金銭に換算できる経済的価値のあるもの全てです。
相続税の対象資産は「有形」か「無形」かを問いません。
亡くなった時に所有していた土地・家屋・立木・事業用財産・有価証券・家庭用財産・貴金属・宝石・書画・骨とう・電話加入権・預貯金・現金など一切の財産が含まれます。
相続税法第22条では、相続等により取得した財産の価額(価値)について「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による」と原則的な評価の方法を規定しています。
その時価の具体的な内容は、相続や贈与の際の評価額の算定方法を規定する財産評価基本通達によることとされています。
3.基本通達による暗号資産の相続税評価額
財産評価基本通達の内容を本章では検討します。
しかし、実は現時点で、財産評価基本通達の中で暗号資産の評価方法が明示的に定められていないという問題があります。
財産評価基本通達においては、暗号資産のように個別の評価方法を定めていない財産については、同通達の5に「この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する」となっています。
すなわち現時点では、暗号資産にもっとも類似する財産の規定を参考にして処理を考えるしかないということになります。
現状、2018年11月に国税庁のホームページに公表された「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」に基づいて評価するのが通説です。
「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」によれば、ビットコインやイーサリアムのような継続的に価格情報が提供されている暗号資産については、外国通貨に準じて、相続人等の納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する取引価格によって評価すること、とされています。
被相続人死亡時の「ビットコインの数量」は、1.で解説した「残高証明書」に記載があるので、「残高証明書」の数量に基づき計算します。
ビットコインのようなメジャーでレートの情報がとれるような暗号資産はよいですが、継続的に価格情報が公表されていないようなマイナーな暗号資産を相続してしまった場合は。一定の相場が成立していないため、取引実態等を踏まえて、個別に評価するとなっています。
この場合、相続税評価額として専門家の算定が必要になりますし、税務調査リスクも上がります。
また、その相続税評価額で処分できる見込みもないので、場合によっては相続放棄も含め選択肢になってくると思われます。