飲食店等を営む個人事業者についての暗号資産の税務上の論点
今回は、飲食店等を営む個人事業者に関する暗号資産の論点について解説をしていきたいと思います。
まず、飲食店等を営む個人事業主についての暗号資産の税務上の論点として、
①売上の対価として暗号資産を受領した場合
②経費の支払として暗号資産を利用した場合
の2つのパターンが考えられます。
それぞれ別の検討が必要になりますが、まずは①売上の対価として暗号資産を受領した場合について見ていきたいと思います。
1.所得税における所得分類について
飲食業を営む個人事業者にとってのメイン収入である飲食店売上の他にも、預金の利子や備品の売却収入などさまざまな収入が想定されます。
これらの収入は「事業付随収入」と総称されます。
所得税法上、所得区分が明確に定義される場合は、給与所得、不動産所得、譲渡所得といった各種の所得に分類されます。
明確な定義がされていないもののうち事業に関連する所得は、最終的に雑収入として、事業所得の位置構成要素として事業所得に含まれ総収入金額に算入されます。
※これは雑所得という独立した所得分類ではなく、事業所得の中の雑収入となります。混同しないよう注意しましょう。
具体的には、預金利息や株式の配当などは定義が明確ですから、それぞれ、預金利息なら利子所得、株式配当なら配当所得といった形で分類されます。
こうした所得の意義が所得税法上明確に定義されているものは、事業の遂行に付随して生じたものであっても事業所得ではなく、明確な定義の方が優先されて各種の所得に分類されます。
一方でたとえば、作業くずや空箱の売却収入、仕入割引やリベートの収入などは所得の意義が所得税法上明確に定義されているものではないため、事業に伴い生じたものは、雑収入として事業所得の総収入金額に算入、つまり事業所得に含まれます。
2.売上代金として受け取った暗号資産の税務処理
売上代金として受領した暗号資産は、暗号資産取引所で円貨に換金します。
暗号資産の換金レートは日々変動しているため、換金時に売上代金との差額が生じます。
当該換金差額は、所得税の計算ではどのように取り扱うかについて、以下見ていきます。
事業所得の売上代金として受領した暗号資産の売却収入は、現行の所得税法で明確に定義されている所得区分の収入ではありません。
したがって、所得の意義が所得税法上明確に定義されていない収入になることから、事業に伴い生じた暗号資産の売却収入乳は、雑収入として事業所得に算入されます。
根拠として、2017年9月に公表された国税庁のタックスアンサーにおいて、「ビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として、雑所得に区分」と記載されています。
一見雑所得になるように読めるかもしれませんが、「事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き」という点に注目すると、条文の反対解釈で、飲食店で暗号資産を受け取りそれを監禁した場合のような事業に伴い生じる暗号資産の売却収入は、事業付随収入として事業所得に区分される取扱いが妥当であると考えられます。
なお、2017年12月には「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」が公表され、2018年11月には「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」が公表されました。
この事業付随収入が事業所得に区分される取扱いは、タックスアンサーの内容と同様であり、その方針に変更はありません。
なお、消費税の取扱いについては以下のようになります。
取引所や交換所での換金時に暗号資産の譲渡を認識し、2017年7月以後の暗号資産の譲渡は非課税取引となります。したがって、課税売上割合の計算上、分母に計上しません。
3.所得税における経費処理
簿記上の概念として、借方と貸方を相殺する「純額処理」と相殺せずに両建てする「総額処理」があります。
所得税法にこれを当てはめると、収入と必要経費を相殺すれば純額処理、両建てすれば総額処理となります。
会計では、棚卸資産の販売は総額、固定資産の売却は純額といったように、重要性などの見地から純額処理と総額処理を項目ごとに使い分けていますが、税務計算では総額処理を基本とします。
次の章では、必要経費として支払った暗号資産の実務上の会計処理を仕訳を使ってみていきますが、上記の観点が非常に重要になるので覚えておきましょう。
4.必要経費として支払った暗号資産の税務処理
昨今は、インターネットショッピングなどで暗号資産による支払いができるサイトも増えています。
飲食店等を営む個人事業主が、店の備品や消耗品を購入するために暗号資産を利用した場合の税務上の論点について見ていきます。
税務上は、暗号資産での購入であっても経費になりますし、支払なので売上の場合のような換算の論点はありあません。
一方で、暗号資産の支払の場合、円貨ではないので帳簿上どのように記帳すればよいかが迷うこところです。
今回は、以下のような具体例に基づき、暗号資産の記帳方法について解説をしていきたいと思います。
5.事例解説
では、事例により記帳方法を見ていきましょう。
【事例】
飲食店での売上10,000円の代金として0.01BTC を受領し、0.01BTC全額を現金(邦貨)に換金せず、0.005BTC は備品6,000円の購入の支払いに充て、残り0.005BTC を現金(邦貨)に換金しました。
なお、ビットコイン交換レートは次のとおり推移したものとします。
・売上代金受領時:1,000,000円/BTC
・備品購入・換金時:1,200,000円/BTC
ビットコインの勘定科目は「暗号資産勘定」という資産勘定、換金時の差益は「暗号資産換算益」という収益勘定を用います。
売上時の仕訳
(借)暗号資産勘定 10,000 (貸) 売上 10,000
備品費6,000 (貸)暗号資産勘定10,000
現金6,000 暗号資産換算益2,000
ポイントは円単位による仕訳を記帳することです。
このように記帳すれば他の円建ての取引と同様に利益や所得を算出することができるようになります。消費税の計算においても、円建ての取引と同じように計算ができます。