暗号資産と仕入税額控除①

2023年10月からインボイス制度が開始されますが、これに伴ってにわかに注目を浴びているのが消費税についての処理になります。

特にインボイス制度は、仕入税額控除に関する制度ですので、改めて自社または自身の確定申告において、課税取引として認識している取引が仕入税額控除として認められるか否かを検討しておくことは非常に有意義であると考えられます。

たとえばビットコイン売買により生計を立てている個人事業者がいたとして、今後、ビットコイン以外の暗号資産の売買や、マイニングによる暗号資産の取得まで事業の拡大を図りたいと考えていたとします。

当然にこの事業者はm売買取引の増加やマイニング開始に伴い、パソコンなどのデジタル機器、通信関連機器、マイニング用の電力確保のための機材など多額の設備投資が必要となります。

多額に設備投資を行った場合などのケースでは、消費税が還付されることもあり得ますが、今回のような暗号資産の売買やマイニング用の設備投資については、消費税の計算ではどのように取り扱われるのか、言い換えると仕入税額控除を適用できるのか検討が必要となります。

ということで今回は、暗号資産の売買で生計を立てている個人の設備投資に係る消費税の仕入税額控について解説をしていきたいと思います。

1.消費税の仕入税額控除について

今回の暗号資産に関する消費税の仕入税額控除を検討する前に、前提知識としての仕入税額控除についての解説をしていきたいと思います。

仕入税額控除を考えるにあたっては、消費税の負担者と、納税者が異なることを頭に入れて考える必要があります。

まず私たち消費者にとっての消費税は、店舗などで購入した際に10%かかってくる税金ということになると思います。

これは、購入先に支払われているように思えますが、実際には購入先はこれを集計して国に納付を行っています。

つまり、購入先(事業者)から見れば、受け取った消費税は消費者の代わりに納税するために預かっている預り金に過ぎません。

注意点として、この消費者から預かった消費税は、預かった税額をそのまま納付するのではないということがあります。なぜなら、事業をしていく上ではさまざまな費用がかかり、その都度外部の事業者に対して消費税を支払っているため、受け取った消費税からこれを差し引かないといけないからです。

そのため、消費税の納税額は、預かった消費税から外部に支払った消費税を引いた差額を納税することで二重課税を防ぐような仕組みになっています。このように、消費税納税額の計算にあたり、外部に支払った消費税を引くことを「仕入税額控除」といいます。

※誤解しやすい点ですが、仕入税額控除は、原価となるような『仕入』だけが控除の対象になる訳ではありません。交通費、備品の購入などあらゆる経費が対象となります。イメージとしては、消費税の仕入=原価と販管費、固定資産の購入を含む全ての費用及び将来の費用と考えるといいと思います。

このように仕入税額控除をすることで、顧客も事業者側も結果として自身の負担した消費税額を負担することになります。

2.暗号資産売買に係る課税仕入れ

続いて、暗号資産にかかる仕入税額控除についての解説をしていきたいと思います。

消費税の仕入税額控除の計算方法は、原則的な『原則課税』と特例である『簡易課税』の2つの計算方法に大別されます。

また、『原則課税』の計算方法は、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」の2つの計算方式に分かれます。

一例として、暗号資産売買用の設備投資と、暗号資産マイニング用の設備投資に係る課税仕入について、消費税の『原則課税』計算における「個別対応方式」を採用する場合を、それぞれ解説します。

消費税の『原則課税』における「個別対応方式」の仕入税額控除の計算では、課税仕入を次の3区分に分類し計算します。

  • 課税売上のみに要するもの(課税売上対応)
  • 非課税売上のみに要するもの(非課税売上対応)
  • 課税売上と非課税売上に共通して要するもの(共通対応)

この3区分に分類された課税仕入の金額は、仕入税額控除の金額を構成するものと構成しないものに分かれ、それぞれ次のように計算されます。

  • 課税売上対応……全額仕入税額控除の対象となる
  • 非課税売上対応…全額仕入税額控除の対象とならない
  • 共通対応………課税売上割合に応じた金額が仕入税額控除の対象となる

このことから、設備投資や各種経費などの課税仕入の金額が、どの区分に分類されるのかが重要な論点となり、消費税法上の売上との対応関係がポイントとなります。

まず暗号資産売買用の設備投資に係る課税仕入については、暗号資産の譲渡(売却)は非課税売上であるため、非課税売上に対応する「非課税売上のみに要するもの」に分類されます。

非課税売上対応であることから、暗号資産売買用の設備投資に係る課税仕入の金額は、「個別対応方式」の計算では仕入税額控除の金額を構成せず、仕入税額控除の対象となりません。

(次回に続く)