会計方針の変更に関する論点解説

前回のコラムでは、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に関連する様々な用語の定義について見てきました。

今回は各用語の定義についてより詳細な論点について概観したいと思います。

まずはもっとも代表的な『会計方針の変更』について見ていきましょう。

1.会計方針の変更についての2つの概念

今回のコラムでは、会計方針の変更が行われた場合の会計処理について説明をしていきますが、まずは企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』に記載のある2分類について説明をしていきます。

会計方針の変更には、①会計基準等の改正に伴う会計方針の変更と②それ以外の正当な理由による会計方針の変更という2種類があります。

①は、計基準等の改正によって特定の会計処理の原則及び手続が強制される場合や、従来認められていた会計処理の原則及び手続を任意に選択する余地がなくなる場合で、会社の意思と無関係に基準の変更などが行われる場合です。

収益認識基準の変更により総額表示から純額表示に切り替えた会社などがありましたが、そのようなケースを想定してください。

②は、会計基準の変更などは特にないものの、会計処理の前提などが変わることで会社が会計処理の方法を意図的に変更するような場合です。

何度か例として挙げている棚卸資産資産の評価方法を総平均法から先入先出法に変更するといったケースがこれに該当します。

2.会計方針の変更に関する会計処理について

①会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合と、②それ以外の正当な理由による会計方針の変更の場合で、原則的には『新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用する』ということで特に変わりはありません。

遡及適用とは、前回のコラムでも解説したように『新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理すること』というものです。(説明済の概念ですが、これが分からないと本論についての理解が不十分となるため、説明を追記させていただきました。)

なお、①会計基準等の改正に伴う会計方針の変更の場合には、会計基準特有の経過措置等が定められている場合があり、その場合は経過措置の定めが優先されます。

次により具体的な会計処理方法について説明をしていきます。

会計方針の変更が行われる場合の『遡及適用』は財務諸表上では次のような形で行われます。

ポイントは過去の期間をストックの概念である貸借対照表等の期首残高と、フローの概念である前期の損益計算書等の記載に分けて考えることです。

まずストックの概念である期首残高等についてです。

これは、表示される期間(損益計算書なら前期まで、有報なら「第一部【企業情報】-【企業の概況】-【主要な経営指標等の推移】 の提出会社の状況の過去5年分の実績数値が該当します)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額が、最も古い期間の期首の資産・負債・純資産に反映されます。

過去の財務諸表全てを修正する必要はないものの、(貸借対照表項目の場合永遠に遡るようなケースは実務上少ないため大きな問題になることは少ないとはいえ)原則的には理論上は、100年存続している企業であれば100年分の財務諸表を遡る必要があるということになります。


一方で、フローの方は簡単で表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映すればよいので、直感的にも分かりやすいですし実務上もこの部分で大きな困難に遭遇することは少ないでしょう。

2.正当な理由による会計方針の変更

前項で説明した『②それ以外の正当な理由による会計方針の変更』の『正当な理由』について、補足をしておきます。

会計方針の変更は財務諸表の数値に影響を与えますので、企業側が好き勝手にできてしまうと利益操作を許すことになり、適正な財務報告が財務諸表利用者に行われなくなってしまいます。

したがって、以下のような事由が存在する場合に限り会計方針の変更が認められています。

①会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること
②会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること

すなわちその会計方針の変更は、財務諸表利用者がより正確に実態を把握するための合理的な事由がある場合にのみ認められ、逆に言えば、一度定めた会計方針は上記のような事情が無い限りは簡単に変更することはできないという点についてご留意ください。

3.遡及適用が実務上不可能な場合

前述したように遡及適用は、原則的には過去の影響期間の全てに遡って修正することを求めているため、実務上遡及適用が不可能な場合が当然に考えられます。


まず、遡及適用ができない場合の例示として具体的には以下のようなケースが考えられます。

①過去の情報が収集・保存されておらず、合理的な努力を行っても、遡及適用による影響額を算定できない場合

これは物理的に保管されていないケースだけではなく、新しく発表された会計方針に必要な情報を今更遡って集計したり計算したりすることができないようなケースも含まれます。

②過去における経営者の意図について仮定することが必要なケース
有価証券の保有目的などが典型的なケースで、売買目的有価証券だったのか投資有価証券だったのかを事後的に判定することは不可能であると考えられ、こうしたケースでは次に説明するような方法で処理をすることになります。

③遡及適用にあたり、会計上の見積りを必要とするときに、会計事象や取引が発生した時点の状況に関する情報について、対象となる過去の財務諸表が作成された時点で入手可能であったものと、その後判明したものとに、客観的に区別することが時の経過により不可能な場合

これは説明が冗長で非常に分かりにくいので、具体例で説明したいと思います。

たとえば繰延税金資産の回収可能性について課税所得が変動したため遡及適用が検討されたような場合、変動後の課税所得や変動要素は分かりますが、当時の時点でどこまで見通すことができていたのかを事後的に判定することは難しいと思います。このようなケースが想定されています。

遡及適用の原則的な取扱いが実務上不可能な場合には、以下のような形で処理を行います。


(1) 当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累
積的影響額を算定することはできるものの、表示期間のいずれかにおいて、当該期間に与え
る影響額を算定することが実務上不可能な場合

遡及適用が実行可能な最も古い期間の期首時点で累積的影響額を算定し、当該期首残高から
新たな会計方針を適用します。

なお、当然、遡及適用が実行可能な最も古い期間が当期となる場合もあります。


(2) 当期の期首時点において、過去の期間のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累
積的影響額を算定することが実務上不可能な場合

このような場合は、期首以前の実行可能な最も古い日から将来にわたり新たな会計方針を適用します。

いずれの場合についても、実行可能な限りで遡及するというのが趣旨になりますので、大雑把に理解するなら、あくまで実務上の可能な範囲で遡及適用すると覚えておくとよいでしょう。