暗号資産の相続と贈与

暗号資産をめぐる想像税については非常に注意すべきことが多く、暗号資産を相続する可能性のある人は相続税について予め知っておく必要があります。

まずは、一般的な相続対策について解説をしていきたいと思います。

1.一般的な相続対策

相続対策として、『納税』→『分割』→『節税』という順番で対策を考えるのが一般的です。

【納税について】

第一に調べるべきなのは、現状の財産を網羅的に把握して、相続税納付ができる金融資産がいくらあるかです。

納税資金が足りない場合、生前のうちから利用頻度が少ない不動産を売却したり、生命保険に加入する等で納税資金を準備しておく必要があります。

【分割について】

納税資金が足りていることが分かったら次は、どの財産を誰に相続させるかを考えましょう。

相続争いで家族関係が悪化する事例が多いので、家族間で話し合いながら公平で納得感のある分割を心がけましょう。

【節税について】

節税の検討は一番最後が良いと思います。節税に必死になるあまり納税資金が足りずに焦ることになったり、家族間の話し合いができておらず相続争いで大きく揉めるといったことになりがちです。

注意点として、被相続人が使用していた金融機関、支店、口座の情報を相続前に把握しておけるとベストです。

分からない場合、被相続人の遺品から通帳や金融機関からの郵送物などを探し出して調べます。(場合によっては近隣の金融機関に被相続人の口座がないか照会することもあります。)

暗号資産を相続財産として把握するのは一般的に非常に難しいので注意が必要です。

秘密鍵やパスワードがわからなければ、実際に送金・決済はできず、最悪そのまま何も動かせないという状態になりかねません。

使用している暗号資産交換業者やウォレットなどは必ず事前に家族に伝えておくようにしましょう。

2.遺言書作成によるメリット

上記のような問題を一気に解決する方法として「遺言書」の作成があります。

どのような財産があるかを財産目録としてまとめることで、相続財産の把握や納税の問題が事前にクリアでき、相続発生後の手続きが格段に減ります。

また、家族の誰に相続させたいか記載することになるので相続争いを未然に防ぐことができます。

遺言には、一般的に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があります。

「公正証書遺言」は証人を立てて公証役場で作成し、費用がかかるといった点がありますが、法的に有効な書面です。

「公正証書遺言」は公的な書面であるため作成後改ざんされることも無く、相続財産の金額が大きくて被相続人の死亡後の相続争いが起こる可能性がある場合など非常に有効です。

一方、「自筆証書遺言」は被相続人自身が記載し、保管します。費用が掛からず気軽に書き換えられるというメリットの反面、全て手書きで書かないといけない、紛失する可能性がある、相続人が改ざんする可能性があるといったデメリットがありました。

なお、2019年の民法改正で「自筆証書遺言」のうち、財産目録は手書きでなくパソコンで作成した場合も有効となりました。

また、通帳のコピーや不動産の登記簿謄本をそのまま添付して作成することも可能になりました。

さらに、2020年7月からは「自筆証書遺言」を法務局で保管してもらえるようになりました。

これにより、遺言書の存在を把握しやすくなり、紛失や改ざんされるといったリスクも無くなりました。裁判所での検認手続も不要になりましたので、スムーズな相続手続が可能となりました。

3.暗号資産の相続について

実はあまり知られていませんが、巨額の暗号資産の含み益を持ったまま被相続人が死亡した場合、相続人には110%近い税率が課せられ、相続した暗号資産以上の税金が必要となって、相続により巨額の損失が発生するという状況あります。

これについて単純化した事例で説明します。

【事例】

被相続人は100万円で暗号資産を購入し、死亡時に評価額が10億円となっていました。

これにかかる税金としては、⑴相続税と⑵所得税があります。それぞれ見ていきます。

⑴相続税

まず10億円分の資産を相続したことで相続人は約55%※の相続税が課され、5.5億円を支払わなければなりません。

※『3,000万円プラス600万円×相続人の人数』の基礎控除がありますが、10億に対しては誤差といえる金額なので無視して計算します。

⑵所得税

次に所得税について考えてみます。

ほとんどの相続人は5.5億円もの相続税支払いはできないので、通常相続した暗号資産を売却することになります。

相続人のこの暗号資産の売却時の利益は雑所得(最高税率55%)となります。

そして、前回のコラムで見たように、暗号資産については相続税納税のため相続財産を売却した場合の『取得費の特例』も適用されません。

すなわち、被相続人の取得価額100万円を計算上引き継ぐので、9億9,900万円が実現利益となり、その約55%である5.5億円の所得税が課されることになります。

相続人は、相続税と所得税を合わせて11億円の税金支払が発生し、計1億円分の損失となります。

このような場合、現実的には相続放棄をする以外にはありませんが、これを少なくとも相続前に換金していれば2億円程度は手元に残せたことになるので、知っていると知らないのとでは天と地ほどの差があります。

4.贈与について

さて、最後に相続と密接に関わる『贈与』について見ていきたいと思います。

暗号資産の相続によるリスクを減らすため、『贈与』を行うのはどうでしょうか?

自身が保有する暗号資産を他者に贈与した場合、「贈与した時点での時価」によって贈与税の計算をします。

「贈与した時点での時価」についての算定方法ですが、継続的に価格情報が提供されている暗号資産については、外国通貨に準じて、当該取引を行っている暗号資産交換業者が公表する取引価格によって評価することになっています。

また、継続的に価格情報が公表されていないような暗号資産については、一定の相場が成立していないため、取引実態等を踏まえて個別の評価が必要です。

5.贈与税の計算方法

贈与税には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つの計算方法があります。

「暦年課税」はさらに「一般贈与財産(兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合)」と、「特例贈与財産(祖父から孫への贈与、父から子への贈与の場合)」に区分されます。

「特例贈与財産」は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子、孫など)の贈与が対象となります。

「暦年課税」の場合、年間110万円まで非課税なのでこの金額以内であれば贈与税はかかりません。

「贈与した時点での時価」が110万円を超える場合には、贈与した年の翌年2月1日~3月15日までの間に贈与税の申告と納税が必要となります。

「相続時精算課税」は、孫が20歳以上であることやその他の条件を満たせば、2,500万円までの贈与には贈与税はかかりませんが、一方で、将来相続が発生したときに相続時の財産に生前贈与した分を合算した金額に相続税をかけるという制度です。

「相続時精算課税」を利用すると「暦年課税」を使うことができなくなるため注意が必要です。