会計方針の変更に関する国際比較

会計方針の変更を取り扱った基準、適用指針は、企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』及び企業会計基準適用指針第 24 号『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針』となります。


これらの基準が登場する前の日本基準では財務諸表等規則等が中心となる基準でした。

当時の基準の問題点として、会計方針の変更を行った場合に注記は行われるものの、過去の財務諸表に対する遡及適用はないため国際会計基準や米国基準との間に齟齬が生じていたという事実があります。


これは、国際財務報告基準(会計方針の変更定めたIAS 第8号)や米国会計基準(同FASB-ASC Topic250)が原則として新たな会計方針の遡及適用を求めているのとは対照的です。

今回のコラムは、こうした国際比較を中心に会計方針の変更についての理解を深めるお話をしていきたいと思います。

1.会計方針の変更の趣旨とその特徴

会計方針の変更は、そもそもどういった目的で行われるのでしょうか。

国際財務報告基準において会計方針の変更を取り扱ったIAS 第8号では、財務諸表の目的適合性、信頼性、比較可能性を高めることを目的として会計方針の変更等が行われる旨が定められています。

これは、会計方針の変更が行われる場合、すなわち新たに適用された会計基準等に経過的な取扱いが定められていない場合や自発的に会計方針を変更した場合には、過去の財務諸表に対して新しい会計方針
を遡及適用することで、注記も含む財務諸表全体が比較情報として提供されることがメリットであると考えられます。

どういうことかと言うと、旧来の日本基準のように会計方針の変更に関する注記のみで対応した場合には、特定の項目だけの開示になるため財務諸表開示項目間の関係性や、変更後の全体像が見えないという欠点があったと考えられるということです。

このように過去の財務諸表を変更後の会計方針に基づく比較情報を提示することで、財務諸表全般についての比較可能性が高まり、ひいては情報の有用性が高まることが期待されるため、会計方針の変更に関する遡及処理の規程が定められたという歴史があります。

2.旧日本基準とIAS8号の会計方針の定義の違い

過年度遡及会計基準に改訂される以前の旧基準と国際財務報告基準では、実はそもそも会計方針の定義の違いがあったことはあまり知られていません。

旧日本基準における会計方針の定義は、『財務諸表作成にあたって採用している会計処理の原則及び手続表示方法その他財務諸表作成のための基本となる事項』となっています。

一方、IAS8号の定義による会計方針は、『財務諸表の作成及び表示を行う際に適用する特定の原則、基礎、慣行、規則及び実務』となっており、旧日本基準と定義が異なります。

具体的には、旧日本基準が会計処理の原則・手続のみならず、表示方法を包括する概念であるのに対して、IAS8号においては、財務諸表の表示ついてIAS 第1号で別途の定めを行い、会計処理の原則・手続とは明確に異なるものとして考えている点に違いがあります。



これは米国会計基準も同様で、FASB-ASC の Topic235「財務諸表に対する注記」によれば会計方針とは、『一般に公正妥当と認められる会計原則に準拠して、企業の財政状態、キャッシュ・フロー及び経営成績の真実な表示を行うために最も適切であると経営者が判断し、それゆえ財務諸表を作成するために採用された特定の会計原則及び当該会計原則の適用方法をいう』と定義され、表示方法は会計方針に含まれる概念ではありません。


これについては、過年度遡及会計基準作成の過程で様々な議論が行われ、従来の会計方針の定義を変えずに、会計方針の変更という概念の下位概念として会計処理の原則及び手続と表示方法という概念に分けるといった方法も検討されたようです。

しかし最終的には、①コンバージェンスの観点及び②会計上の取扱いが異なるものは別々に定義することが自然であるという常識的な結論に落ち着いたようです。

この結果、現行の過年度遡及会計基準のように会計方針と表示方法とが別々に定義され、各々その会計処理が定められるという基準の構造になったということです。

会計方針の変更と表示方法の変更は、別々の定義にも関わらずその会計処理やベースとなる考え方がほぼ同じであまりに似過ぎている点について不思議に思った方もいるかもしれませんが、この二つの概念が非常に類似しているのは上記のように元々は全く同じ概念に含まれていたことも大きいと思います。

3.会計上の見積りの変更についての国際比較

実は、過年度遡及会計基準以前の旧基準の時代には、監査基準委員会報告書第26号には『会計上の見積』に類似した概念の記載はあるものの、会計的な概念としての『会計上の見積の変更』は存在しませんでした。

一方、米国会計基準にも国際財務報告基準にも、会計上の見積りの変更についての定義は当時から設けられていました。

たとえばIAS 第8号における会計上の見積りの変更は、『資産及び負債の現在の状況の評価の結果行われる、または資産及び負債に関連して予測される将来の便益及び義務の評価の結果行われる、それらの帳簿価額の修正又は資産の期間ごとの消費額の修正をいう』というものです。

これは、表現こそ異なりますが現行の日本基準とほぼ同じと考えてよく、現行の日本基準と同様にポイントは、新しい情報や事業展開から生じるものであって誤謬の訂正ではないという点になります。


続いて米国会計基準です。FASB-ASC Topic250 において会計上の見積りの変更は、『既存の資産又は負債の帳簿価額に影響を及ぼす変更や、既存又は将来の資産若しくは負債についての将来の会計処理に影響を及ぼす変更』と定義されます。

米国会計基準も、表現は異なるものの日本基準や国際財務報告基準と大きな違いはなく、将来の会計処理に影響を及ぼす変更であって、誤謬の訂正とは区別されるというのがポイントになります。

最後に、国際財務報告基準における『会計上の見積りの変更』の会計処理について説明します。

といっても過年度遡及会計基準と変わることは無く、その内容としては、過年度に遡って修正はせず、当期及び翌期の損益に含めることにより、将来に向かって認識するというものになります。

こうした背景を踏まえた上で、過年度遡及会計基準における現行の『会計上の見積の変更』の定めが設けられました。

この改訂は、国際的な会計基準とのコンバージェンスを踏まえた会計上の変更に関する包括的な取扱いという観点で行われ、会計上の見積りとその変更の定義を国際的な会計基準に準拠する形で行われました。