会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の取扱いについて

会計方針の変更と会計上の見積の変更の違いについて、前回までのコラムで学ぶことでかなり掴むことができた方も多いと思います。

しかし、実はこの会計方針の変更と会計上の見積の変更との区別ができないケースがあるのはご存知でしょうか?

具体的には、減価償却は会計方針とも会計上の見積とも解釈することができるっため、減価償却方法を変更した場合にどちらの処理を行うのか、すなわち遡及適用するのか否かが異なるためこれを明確にする必要があります。

ということで今回は、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に関連する論点のうちでも最も複雑な論点の一つである『会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の取扱い』について解説をしていきたいと思います。

1.減価償却方法の変更の取扱いに関する論点整理

日本の会計基準がコンバージェンスをテーマに改正を進めてきたことはこれまでのコラムでもたびたび触れてきました。

今回の論点における重要なポイントは、国際的な会計基準と旧来の日本基準との間で減価償却の解釈に違いがあったという点です。どういうことか、以下具体的に見てきます。

まず、国際的な会計基準においては、減価償却方法の変更は、旧来の日本基準が有効であった時代から『会計上の見積りの変更』に含まれており、遡及適用の対象とはされていませんでした。

一方、旧来の日本基準では企業会計原則注解などで、減価償却方法は会計方針の 1 つとされていました。(つまり、減価償却方法の変更は『会計上の変更』ということになります。)

旧来の日本基準の減価償却の考え方は、過年度遡及会計基準によれば『固定資産の取得原価を各期に配分する方法として、定率法や定額法などの一定の計画的・規則的な配分方法があることを所与とし、そのような複数の会計処理の中での選択の問題として捉えている』というものでした。

これは、現実の価値の減少の仕方を完全にトレースしていなかったとしても、あくまで定額法や定率法という一定の決まったルールの中で会社がもっとも合理的と思われる方法を選択するという意味で『会計方針である』と主張しており、一定の合理性があるように思われます。

2.国際財務報告基準の考え方

次に過年度遡及会計基準の記載にしたがいつつ、国際財務報告基準の考え方を見ていきましょう。(この章の引用『』は全て過年度遡及会計基準によります。)

国際財務報告基準では、まず減価償却方法自体は、『資産に具現化された将来の経済的便益が消費されるにつれて減価償却を行うという会計方針を適用する際に使用する手法』と考えます。

難解な表現ですが、これは「会計方針に該当するのは減価償却という会計処理であって、減価償却方法は会計方針ではない」と考えていると理解すればよいでしょう。

そのうえで、『使用される減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予測されるパターンを反映することとしている。さらに、適用される減価償却方法は毎期見直し、もし、予測された消費パターンに大きな変更があった場合は、当該パターンを反映するようにこれを変更し、会計上の見積りの変更として会計処理しなければならない…すなわち、減価償却方法は、減価償却を認識するという会計方針を適用する際に使用する手法であるため、その手法の変更は会計方針の変更ではなく、資産に具現化された将来の経済的便益の予測消費パターンの変更を意味するものであることから、当該減価償却方法の変更は会計上の見積りの変更に該当するという考え方をとっているものと思われる。』との記載がされています。

これも非常に難解な表現ですが、旧来の日本基準の考え方との違いを強調しつつ簡便な説明をすると、「現実に起こる減価のパターンは100%でなくても減価償却方法の選択や耐用年数の見積等により実質的にトレースできるため、減価償却は会計上の見積の概念に含めるべき」という風に言い換えると理解しやすいと思います。

すなわち財務報告基準においては、会計方針に相当するものがあるとすれば減価償却自体であって、減価償却方法は現実の資産の減価を再現できることから見積に近い概念であると考えているということです。

4.会計方針であっても見積変更と同様に取り扱うべきという考え方(米国会計基準)

旧来の日本基準が減価償却方法を会計方針としていたのは、そもそも固定資産の経済的便益の消費パターンの見積りが固定資産の取得時点では難しいと考えていたことにあります。

つまり、貸倒引当金のような他の『会計上の見積』と異なり、取得時点では固定資産がどの程度のスピードで劣化するのか等を根拠を持って見通すことはそもそも難しく、とはいえ物理的・経済的な劣化を財務報告に反映しないことも適切ではないため、ある意味苦肉の策として計画的・規則的な償却を行っているというのが歴史的な考え方でした。

このロジックで考えると減価償却方法の変更は、見積りできないからこそ会計方針の変更と考えていることから会計上の見積ではあり得ず、減価償却方法の変更は会計方針の変更となり、遡及適用を行う事になります。


これらの議論を踏まえた上で、次に米国会計基準の考え方を紹介しようと思います。

以下に説明する米国会計基準の考え方は、旧来の日本基準から現行の日本基準への移行を理解するうえで非常に有益な考え方になりますのできちんと理解してもらえると嬉しいです。

米国会計基準では発想を変えて、減価償却が会計方針なのか会計上の見積なのかという二者択一を回避して、減価償却方法自体は会計方針を構成するが、減価償却方法の変更は、会計上の見積りの変更と同様に取り扱うとする考え方を採用しました。

これは、減価償却方法のように会計方針の変更と会計上の見積りの変更との区別が難しいケースがある以上、そこに白黒を付けに行く必要性は薄いという実務上の便宜を重視した考え方です。

理論上も、将来の経済的便益の予測消費パターンが変化したものと判断した上で、新しい減価償却方法が当該パターンをよりよく反映すると考えれば、会計方針の変更によりもたらされる会計上の見積りの変更が行われたと解釈でき、会計方針の変更の正当性を充足しつつ実際の会計処理としては会計上の見積の変更と同様に行うという整理ができると思われます。

5.現行の日本基準における減価償却方法の考え方

現行の日本基準である『過年度遡及会計基準』を制定するに当たり、こうした過去の議論を踏まえたうえで以下のようなかなり踏み込んだ議論が行われたので、それらの経緯を紹介します。

【減価償却方法の変更を会計上の見積の変更とみなせない理由】

減価償却方法の変更を会計上の見積の変更とみなせない理由として、次のような議論が行われたようです。

①現実に存在する固定資産の減価パターンと比較して会計処理上認められる減価償却方法が少なすぎるという指摘

減価償却方法として実際に用いられている方法は、定率法、定額法、生産高比例法など限定的であって、その償却方法もすべて計画的・規則的な償却方法なので、もし減価償却方法の変更を会計上の見積りの変更と解釈するなら、経済的便益に関する消費のパターンがこれしかないと考えることになります。これは現実的に考えるとかなりあり得そうもない結論となります。

②恣意的な会計操作を許容することになるという指摘
もし減価償却方法を経済的便益に関する消費のパターンに合致させようとした場合、実態に即した減価償却方法が選択されることによる便益よりも、継続的な会計処理が途切れ比較可能性が損なわれることや、多様な会計処理の選択の余地を増やすことによる恣意的な会計操作が行われる危険性の方が大きいという指摘があり、これも妥当な指摘に思えます。

③自由に見積られた減価償却方法の事後的な検証が現実的には不可能

もう一つ、減価償却方法の変更を会計上の見積りの変更と考えた場合、採用している減価償却方法が合理的な見積りを反映しているかどうかをバックテストで確認する必要があります。しかし、経済的便益に関する消費量を計測することは現実的に難しく、見積の合理性を常時検証し続けるという対応は現実には不可能なのではないかという指摘もあります。

【会計処理に会計上の見積の要素を含めるべき根拠】

反面、次のような理由により、減価償却方法の変更を会計上の見積の変更と一切無関係な処理として考えるのも合理的ではないという議論がありました。

①経済的便益の消費パターンに合わせた減価償却方法の適用もある程度できる
減価償却方法の変更にあたり、固定資産に関する経済的便益の消費パターンに照らした処理がまったくできない訳ではありません。計画的・規則的な償却方法しかないとはいえ、一般に多くの減価パターンは規則的償却に近似すると思われ、最も適合的な方法を選択することは可能なのではないかという指摘です。

これはこれで説得力のある議論だと思います。

②実務との整合性

実際に、固定資産に関する経済的便益の消費パターンに変動があったことを減価償却方法の変更の理由としている実務がみられるという指摘もありました。現場感覚から言えば、減価償却方法に見積要素があることは自然で、あえて過度に理論的な会計処理を採用すべきかどうか議論が分かれるところだと思います。

このような議論を踏まえ最終結論として、過年度遡及会計基準では、減価償却方法の変更を『計画的・規則的な償却方法の中での変更であることから、その変更は会計方針の変更ではあるものの、その変更の場面においては固定資産に関する経済的便益の消費パターンに関する見積りの変更を伴うものと考えられる。』としました。

すなわち、減価償却方法自体は会計方針として位置付けるものの、減価償却方法の変更は、『会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合』に該当するものと定義して、会計上の見積りの変更と同様に会計処理を行うこととしました。

よって、減価償却方法の変更は会計方針の変更として注記などはされますが、会計処理上は遡及適用されず、当期以降の数値のみに減価償却方法の変更の影響が現れるということになります。

6.会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の具体的な会計処理

最後に具体的な会計処理について説明します。

まず、減価償却方法の変更のような会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合については、会計上の見積りの変更と同様に取り扱い、遡及適用は行いません。

ただし、注記については、少し変則的で次のような形になります。

①会計方針の変更に関する注記のうち、「会計方針の変更の内容」と「会計方針の変更を行った正当な理由」の記載を行う。
②会計上の見積りの変更に関する注記を行う。

今回は非常に複雑な論点であるため、記事も長いものとなりました。

分からない場合は何度も読み直して、きちんと理解できるまで読み込んでいただければと思います。