暗号資産の売買で生計を立てている個人の必要経費

脱サラしてビットコインなどの暗号資産売買により生計を立てている個人事業者も昨今ではいるようです。

サラリーマンであれば、毎年の年末調整による会社の税金計算のみで確定申告はしないのが普通ですが、個人事業者となると確定申告が必要となり、確定申告にあたっては収入や経費の集計が必要となります。

しかしながら、脱サラ後の暗号資産の売買に伴う必要経費と言っても、パソコンや携帯電話料金、情報収集のための支出など、暗号資産の購入手数料以外にもさまざまな支出が生じると考えられますが、これらは家事支出との区分が難しく税務上暗号資産の売買に伴う必要経費として認められるのでしょうか?

確定申告では、経費として認められるものと認められないものもあるので、どこまでを必要経費とできるかについて解説をしていきたいと思います。

1.必要経費の取扱い

結論から言うと、所得税の事業所得や雑所得の必要経費は、売上原価のほか、「その所得を生ずべき業務について生じた費用の額」とされます。(ただし減価償却費や家事関連費の取扱いには、注意が必要)

暗号資産の売買に係る所得は、原則として「雑所得」、事業的規模であれば「事業所得」に区分されます。

ここで、「事業所得」と「雑所得」の計算方法ですが、それぞれの所得金額の計算方法は、下記のとお

りとされています。

・事業所得金額=総収入金額-必要経費

・雑所得金額=総収入金額-必要経費

上記のとおり、外観、フレームはどちらも同じであり、多岐にわたる税務の規定を見れば差異は生じるのですが、基本構造は同じとなります。

つまり、どちらの所得区分にあっても“必要経費”がポイントであり、この“必要経費”に“該当する”のか“該当しない”のかが、その支出が経費として認められるかどうかと同義ということです。

所得税法上、必要経費となる金額を下記のとおり規定しています。

① 総収入金額に対応する売上原価その他その収入金額を得るため直接に要した費用の額

②その年における販売費、一般管理費その他その所得を生ずべき業務について生じた費用の額

まず①ですが、条文中にも売上原価とあるとおり、暗号資産の売買の場合では暗号資産売却時の譲渡原価(購入した暗号資産全額ではなく、売却した暗号資産に対応する金額)のことです。

こちらはあまり解釈の余地もないので難しくありません。

一方②ですが、業務につきさまざまに生じる支出のうち販売費や一般管理費などの各種費用が、こちらの項目に該当することとなるので、こちらが今回のメインテーマとなると思います。

この販売費や一般管理費について、①の売上原価のようなピンポイントの項目ではなく、業種業態などにより、さらには個々人の業務形態などによってもさまざまであり、多種多様な費用が想定されます。

これについて国税庁の「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」においては、暗号資産売却時の売却手数料のほか、暗号資産売買業務に係る「インターネットやスマートフォン等の回線利用料、パソコン等の購入費用など」が、例として掲載されています。

この他にも、暗号資産売買に係る情報収集のための書籍代などが、図書費などとして②の必要経費に該当するものと考えられます。

また、国税庁の「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)では、「減価償却費」と「家事関連費」について注意事項としての記載があるので、次の章ではこの2つの項目について解説します。

2.減価償却費の取扱い

減価償却計算とは、パソコンなど1年以上にわたって使用するものを購入した際の金額を、全額その購入した年のみの費用とするのではなく、購入時の金額を使用する期間にわたり分割して各年の費用に計上する計算方法です。

つまり、少額の雑多な消耗品などと異なり、1年以上使用し一定の金額以上となるパソコンなどのようなものについては、使用する期間中の各年において、分割した金額を減価償却費として複数年の費用として計上します。

減価償却の計算方法(購入時の金額の分割方法)は、定額法や定率法など複数ありますが、暗号資産に関する必要経費であっても他の場合と同様に取扱うことになります。(すなわち、10万円未満は経費とすることができ、20万円未満は一括償却ができます)

3.家事関連費の取扱い

所得税法では、『必要経費』とならない支出を『家事費』と定義しています。

つまり、経費として認められないプライベートな支出が“家事費”です。個人に生じた全ての支出を“必要経費”と“家事費”に分類しようとすると、やはりグラデーションがあり、業務上の“必要経費”とプライベートの“家事費”の中間に位置付けられる支出や、業務とプライベートの両方に関連する支出もあり得ます。この“必要経費”と“家事費”の中間にある支出が「家事関連費」です。

具体例として、家賃を例に説明します。業務用の事務所の家賃は、業務上の支出であり“必要経費”です。自宅の家賃は、プライベートの支出であり“家事費”です。これらに対し、自宅兼事務所の家賃は、業務とプライベートの両方に関連する支出であり「家事関連費」となります。

この「家事関連費」の所得税法上の取扱いですが、大原則としては“必要経費”に算入しない、つまり、経費として認められない支出となります。これは、端的に言えば、どのような支出であっても業務に関連付けることによって経費として認めるようなことはできない、ということです。

しかしながら、この大原則を貫き通すと、それぞれの支出を“必要経費”と“家事費”に区別が明確にできる業態や業種の個人に対してのみ有利となり、公平で中立な税務計算に支障が生じます。そこで、「家事関連費」のうち、その主たる部分が業務上必要不可欠であり、業務上必要な部分を区分した金額に限って“必要経費”に算入する取扱いが規定されています。

「家事関連費」の取扱いは上述のとおりですが、主たる部分が業務上の支出に該当するのか、業務上の部分を明確に区分するにはどうすればよいのかなど、実務上、困難を要するケースもしばしばです。

国税庁の「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(情報)」においても、「必要な支出であると認められる部分の金額に限り」や「業務の遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合に限り」との記載があり、その上での必要経費算入が求められています。

「家事関連費」については、慎重な判断と、その区分の明確な論拠に注意が必要です。