過年度遡及会計基準に関する用語の定義

前回のコラムでは、『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』に関連した基準、過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針の導入の背景などをお話ししました。

特に国際的な会計基準とのコンバージェンスという観点から、従来の「会計方針に変更があっても、変更後の会計方針に選択の余地がないような場合には遡及処理を行わず追加情報での記載に留める」という処理が不整合を生じるため改正が必要になったという内容でした。

今回はまず、この『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』の一連の概念や定義について見ていこうと思いますが、非常に複雑で紛らわしい用語も多いので何度も読んで理解してくださいね。

主要な用語の定義

企業会計基準第24号 『会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準』には、『会計上の変更』及び『過去の誤謬の訂正』に関連する様々な用語の定義が述べられています。

まずは、この過年度遡及会計基準の定義に基づき用語の定義を概括的に見ていこうと思います。

会計方針

過年度遡及基準による定義では、「財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続」となっています。

次のようなものが会計方針の具体例となります。

1. 有価証券の評価基準及び評価方法
2. 棚卸資産の評価基準及び評価方法
3. 固定資産の減価償却方法
4. 繰延資産の処理方法
5. 外貨建資産・負債の本邦通貨への換算基準
6. 引当金の計上基準
7. 費用・収益の計上基準

たとえば棚卸資産の評価方法では、先入先出法や平均法といった複数の会計処理方法があり、どの方法を採用するかによって最終的な財務諸表の表示(棚卸資産の評価方法の例でいえば、期末時点の貸借対照表上の棚卸資産の評価額)が異なってきます。

財務諸表作成を行う上では会計方針という一種の「解釈」指針が必要となるのですが、これらを包含した概念が「会計方針」となります。

表示方法

過年度遡及基準による定義では、「財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む。)をいい、財務諸表の科目分類、科目配列及び報告様式が含まれます。」となっています。

表示方法の具体例としては、たとえば、建物の減価償却累計額の総額表示と純額表示などがあります。

会計方針と同様に、どちらも会計上の適正な選択肢(上の事例で言えば総額表示と純額表示)の中から報告主体が選択でき、その結果財務諸表利用者への開示情報に差異が生じるという特徴があります。


会計上の見積り

過年度遡及基準による定義では、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」となっています。

会計上の見積の具体例としては、繰延税金資産の見積や減損といった論点があります。

どちらも証憑などの物証的な裏付けがないものの、会計基準上は算定が必須となり、かつ定義にあるように不確実性(もう少しかみ砕いた言葉で言うと、どうやっても明確に確定できないという意味)があるため、ある程度何らかの合理的な根拠に基づいて推定せざるを得ないという特徴があります。

会計上の見積は、上のような文字通り『見積』を伴うため企業の不正、誤謬も発生しやすく、監査上も注意が必要となります。


会計上の変更

過年度遡及基準による定義では、「会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更であり、過去の財務諸表における誤謬の訂正は、会計上の変更には該当しない」となっています。

会計方針の変更、表示方法の変更及び会計上の見積りの変更のそれぞれの定義は後述します。

会計上の変更の特徴は、後述する誤謬とは異なりその変更自体は正しい会計処理であるという点です。過去の誤謬の訂正を含まないとわざわざ基準上で明記している意味は、この点をはっきりとさせ、過去の財務諸表自体に誤りがあったケースである誤謬と明確に区別する意図があります。

会計方針の変更

過年度遡及基準による定義では、「従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更すること」となっています。

具体的には、棚卸資産の評価方法を総平均法から先入先出法に代える場合等が該当します。

ポイントは、『一般に公正妥当と認められた会計方針』から他の『一般に公正妥当と認められた会計方針』に変更するという点で、会社の選択により正しい処理から正しい処理に変更するというのが会計方針の変更です。


表示方法の変更

過年度遡及基準による定義では、「従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更すること」となっています。

具体的には、減価償却の表示方法を純額表示から総額表示に代える場合等が該当します。

『一般に公正妥当と認められた表示方法』から他の『一般に公正妥当と認められた表示方法』に変更するという点が、これもポイントになります。


会計上の見積りの変更

過年度遡及基準による定義では、「新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更すること」となっています。

会計上の見積の変更の具体例としては、耐用年数の変更、引当金の修正、資産除去債務の見積の変更などがあります。

過去に見積もりを行った時点と現在の状況が異なることで表示される見積額が異なるようなケースが想定されます。

例えば資産除去債務であれば、転居時期の変更などにより賃貸物件の退去費用の見積りが異なったような場合を考えると理解しやすいと思います。


誤謬

過年度遡及基準による定義では、「原因となる行為が意図的であるか否かにかかわらず、財務諸表作成時に入手可能な情報を使用しなかったことによる、又はこれを誤用したことによる、次のような誤り」となっています。

基準に列挙されている誤りの例示としては以下のようなものがあります。


① 財務諸表の基礎となるデータの収集又は処理上の誤り
② 事実の見落としや誤解から生じる会計上の見積りの誤り
③ 会計方針の適用の誤り又は表示方法の誤り

特徴としては、「誤り」すなわちあるべき会計処理ではないという点につきます。

前述したように、誤りであるという点で会計上の変更とははっきり異なる概念として定義されている点に留意してください。


遡及適用

過年度遡及基準による定義では、「新たな会計方針を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように会計処理すること」となっています。

後述する修正再表示と違って、表示上は遡って修正を行うものの財務諸表自体を修正する訳ではなく、比較情報の修正にとどまる点が特徴です。

会計方針の変更と対になる概念で、実務上、会計方針の変更が行われた場合に取られる会計処理となります。


財務諸表の組替え

過年度遡及基準による定義では、「新たな表示方法を過去の財務諸表に遡って適用していたかのように表示を変更すること」となっています。

遡及適用の表示方法の変更バージョンというのがもっとも簡単な説明で、これも修正再表示と違って、表示上は遡って修正を行うものの財務諸表自体を修正する訳ではなく、比較情報の修正にとどまります。

表示方法の変更と対になる概念で、実務上、表示方法の変更が行われた場合に取られる会計処理となります。


修正再表示

過年度遡及基準による定義では、「過去の財務諸表における誤謬の訂正を財務諸表に反映すること」となっています。

誤謬と対になる概念で、遡及適用や財務諸表の組替えと異なり、過去の財務諸表そのものを修正する点に特徴があります。

いかがでしたか。

今回は、過年度遡及会計基準や過年度遡及適用指針に出てくる一連の概念、定義を説明しました。

次回以降はより個別論点に踏み込んだ形で説明を行っていきたいと思います。