実務対応報告38号にみる活発な市場が存在しない仮想通貨の減損について②

活発な市場が存在する仮想通貨に減損処理が不要な理由

前回の記事では、活発な市場が存在しない仮想通貨減損の会計処理を考える前提として、取得原価で評価する仮想通貨以外の資産の収益性が低下した場合の会計処理についてみていきました。

ここで重要なのは、そもそも活発な市場が存在する仮想通貨の場合には、『減損処理』という概念自体が存在しないということです。

他の時価評価する資産についても同様ですが、タイムリーに時価評価をする資産というのは、財務諸表を外部公表するときには常に決算日時点の時価により貸借対照表に計上されているため、収益性低下の事実は既に貸借対照表価額に反映されていると考える事ができます。

反面、活発な市場が存在しない仮想通貨のように取得原価で評価する資産というのは、あくまで会社が行った投資額の理論上の未回収残高に過ぎないため、当初予想したよりも収益性が低下した場合に、償却計算等による価値減価では十分に収益性の低下を反映できない可能性があります。

そのため、活発な市場が存在しない仮想通貨においてもその実質的な価値が大きく低下した場合にどのように減損処理するのか?という問題が生じる事になります。

 

なお、実務対応報告38号42項では下記のように、活発な市場が存在しない仮想通貨の減損処理の必要性が述べられています。

『我が国の会計基準においては、取得原価をもって貸借対照表価額とする資産の収益性が低下した場合、取得原価基準の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないために回収可能価額まで帳簿価額を切り下げる会計処理が行われている。この点を踏まえると、活発な市場が存在しない仮想通貨についても、売買・換金によって資金の回収を図ることが想定されるため、(中略)収益性が低下していると考え、帳簿価額の切下げを行うことが適当であると考えられる。』

活発な市場が存在しない仮想通貨の減損処理

いよいよ活発な市場が存在しない仮想通貨の減損の会計処理について検討を行っていきます。

前回の記事で、減損処理と投下資本回収形態との間に密接な関係があることを見ていきました。

活発な市場が存在しない仮想通貨にこれを当て嵌めるとすると、どの資産をモデルとするのが適当でしょうか?

 

まず、固定資産債券として考えるのはどうでしょうか?

これは明らかに投下資本回収の回収形態が違います。仮想通貨は、固定資産のように使用によりキャッシュを生み出すこともなければ、債券のように契約により将来のキャッシュを確定させるものでもありません。

したがって、これらの資産の回収可能価額の見積もりを行うときのように将来キャッシュフローの見積りをベースとした会計処理は適切ではありません。

 

続いて考えてみたいのが、時価の無い有価証券としての会計処理です。

同種の金融商品として一見適切な会計処理ができそうに思えます。しかし実は、活発な市場が存在しない仮想通貨の会計処理は、時価の無い有価証券の会計処理とは異なった方法で行います。

これは、有価証券と仮想通貨の金融商品としての性質の違いに起因します。

有価証券(ここでは株式を想定します)という金融商品の本質は配当受領権ですから、その価値の源泉は企業価値であって有価証券そのものではありません。

一方で、活発な市場が存在しない仮想通貨は、それ自身が価値の主体ですから有価証券のように『実質価額』という概念はありません。

 

むしろ、活発な市場が存在しない仮想通貨にもっとも近いのはそれ自身が価値を持ち、売却によって投下資本を回収する棚卸資産ということになります。

この点について、実務対応報告38号43項は下記のように要約しています。

『棚卸資産における期末評価時の時価を基礎とした正味売却価額の見積りが困難な場合の定めとして、期末日における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)を用いる取扱いが認められていることを踏まえ、活発な市場が存在しない仮想通貨についても、期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)まで帳簿価額を切り下げることとした。』

 

活発な市場が存在しない仮想通貨の減損後の帳簿価額

活発な市場が存在しない仮想通貨の収益性が低下、すなわち処分見込額が取得原価を下回る場合には、棚卸資産にならって処分見込額まで切り下げることが分かりました。

しかし、この処分見込額というのが大きな問題となります。と言うのも、そもそも活発な市場が存在せず時価がないから収益性の低下をどう帳簿価額に反映するか問題となった訳です。

 

実務対応報告38号では、第三者との相対取引価額が例示されていますが、処分見込額として信頼に足る金額を見積もることができるケースは、実務上そう多くはないのではないかと思います。

実務対応報告38号にも記載がありますが、こうした処分見込額を信頼性をもって見積もることが困難なケースにおいては、ゼロ又は備忘価額を貸借対照表価額として会計処理することとなります。

 

いかがでしたか?

活発な市場が存在しない仮想通貨の減損処理に関する実務対応報告38号の記述は非常に難解で、減損処理を体系的に理解している人でないとその真意が読み取れない構造になっていました。

今回の2回にわたる記事を読んでいただいた上で、もう一度実務対応報告38号40項~43項に目を通していただくことでさらに理解が深まると思います。