暗号資産市場の大暴落が起こった場合の会計基準等について

ビットコインをはじめとする暗号資産は、その価格のボラティリティが高いことで知られています。これは暗号資産の市場の参加者が(株式市場などと比較すると)少なく、また暗号資産自身の価値不安定さ保有する企業においても大暴落を想定したリスク軽減策が必要となってくるでしょう。

 

今回は、仮に市場が大暴落したことによって保有する暗号資産が無価値になった場合に、会計上、税務上どのような処理があり得るかについて考察したいと思います。

 

1. 会計上の取扱いについて

 

暴落した暗号資産の期末評価額について、市場価格に基づく価額をもって暗号資産の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理することになります。

 

すなわち、(当然ですが)他のケース同様に期末の時価評価を例外なく行います。

 

時価評価が原則となるため、大暴落を起こして市場価額がゼロになった場合には、評価損の計上が必要となります。

 

このとき注意すべき点として、時価は0円であっても保有の事実を帳簿に残すため、備忘価額(通常は1円)を付して、残額を評価損に計上することが挙げられます。

 

暗号資産の時価への評価替えによる差損益は、原則的には通常為替差損益等と同様に営業外損益の項目に表示すべきと考えられます。

 

しかし、(あくまで例外的なケースとして)大暴落のように金額、影響が大きい場合は、特別損失に表示する方法も採用する余地が一応はあると考えられます。

 

※ただし、特別損失は企業会計原則上『臨時かつ多額』である事を要件としておりますので、暗号資産というボラティリティの高い資産自体に内包するリスクにより暴落した場合にまで、経営者が経常損益をよく見せかけるために特別損失へと計上することは許容されないと考えられます。

 

(仕訳例)

A社は投資目的でイーサリアム200ETH(吸得価額2,000,000円)を保有していたが、大暴落によって無価値になった。

(借)仮想通貨評価損 1,999,999   (貸)仮想通貨勘定 1,999,999

 

金額が多額になることを除けば、通常の時価評価の会計処理と変わるところはありません。

 

2. 法人税法上の取扱い

 

令和元年度税制改正によって、資金決済法第2条第5項に定義される暗号資産は、法人税法上、短期売買商品等(金、プラチナなど短期的な価格の変動を利用して利益を得る目的で取得した資産)に含まれることになりました。

 

加えて、活発な市場が存在する暗号資産については、暗号資産会計基準同様、時価によって評価することになりました。

 

資金決済法に定義する暗号資産に該当し、かつ、活発な市場が存在する暗号資産(ビットコインやイーサリアムなど我々が通常目にする暗号資産)は、会計上の取扱いと同様に時価で評価し、評価損を計上することになります。

 

 

3.資金決済法上の暗号資産に該当しない場合の取扱い

 

今回のイーサリアムは、資金決済法に定義する暗号資産であり、かつ、活発な市場が存在する暗号資産に該当する場合は、上記で見たように会計上、税務上のいずれの場合も時価評価となり、かつ、評価損益は、損失(損金)に計上する取扱いとなっています。

 

しかし、暗号資産に係る区分としては、

 

①資金決済法の定義に該当しない暗号通貨

②資金決済法の定義に該当し、活発な市場が存在しない場合

③資金決済法の定義に該当し、活発な市場が存在する場合

 

の3つの区分が考えられます。前半の考察では③について主に解説していますが、以下、①及び②についても解説したいと思います。

 

実は、資金決済法に定義する暗号資産以外の暗号資産については、会計、税務ともに何ら規定されておありません。

 

暗号資産は、債権、固定資産、有価証券、棚卸資産のいずれにも該当せず、既存の規定のなかで該当するものも存在しないことから、資金決済法に定義する暗号資産以外の暗号資産については、実際に売却等によって損失が実現するまで、評価損の計上は認められないものと考えられます。

 

すなわち、資金決済法に定義する暗号資産以外の暗号資産については、原則、原価法による評価を行うことになります。

 

4.資金決済法に定義する暗号資産のうち、活発な市場が存在しない暗号資産の会計

 

続いて、資金決済法に定義する暗号資産のうち、活発な市場が存在しない暗号資産の場合の会計処理について見ていきましょう。

 

まず注意点として、資金決済法に定義する暗号資産のうち、活発な市場が存在しない暗号資産の場合には、例外的に会計上の処理と税務上の処理が異なることが挙げられます。

 

会計上は、暗号資産基準第6項に活発な市場が存在しない暗号資産の定めがあり、期末の処分見込価額(0円及び備忘価額を含む)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額を貸借対照表価額とし、処分見込価額と貸借対照表価額の差額が当期の損失として処理することになっています。(会計上の減損と考えるのが分かりやすいと思います。)

 

一方、法人税法では、活発な市場が存在する暗号資産のように、資産の評価損益計上が認められるのは例外的な取り扱いとなり、資金決済法に定義する暗号資産のうち、活発な市場が存在しない暗号資産については取得原価での評価となります。

 

というのも、仮に資産の評価益を計上した場合には金銭的裏付けがなく別の手段で納税資金を確保しなければならない不都合があり、逆に評価損を計上した場合には、資産によっては時価評価自体が困難で恣意性が排除できない(すなわち納税者の都合により評価損を計上することで課税逃れが容易になってしまう)ことなどが考えられるからです。

 

このように法人税法上、時価評価が認められるのは活発な市場が存在する場合に限られているため、会計と税務で取扱いに差異が生じることになります。

 

4. 消費税の取扱い

ビットコインの時価への評価替えによる評価損益は、資産の譲渡等に該当しないため消費税の取扱いは課税対象外取引になります。