上場準備企業の内部統制について①

株式市場に上場には、いくつかの厳しい基準をクリアする必要がありますが、IPOを行う会社にとっての大きな関門の一つになるのが内部統制の構築です。

今回は、上場に必要な内部統制がどんなもので、どの程度の水準が求められるかについて解説していきたいと思います。

1.内部統制報告書制度とは

上場企業は、金融商品取引法において財務諸表と共に「内部統制報告書」「内部統制監査報告書」を提示、公開しなければならないとされています(J-SOX)。

内部統制とは、企業が適切な事業活動を行うの遵守すべきルールや仕組みのことで、定義としては下記のように定められています。

『内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令などの遵守並びに資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング(監視活動) 及びIT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される』


内部統制は、財務報告の基礎にもなりますから上場後は監査法人の監査を受けなければなりません。

また、非上場企業であっても、親会社が上場企業で自社が連結対象となっている場合や、上場企業であり、上場他社の主要取引先として内部統制の評価範囲に含まれる場合も、 親会社、主要取引先などの評価範囲に含まれるために監査法人等からさまざまなチェックを受けることになります。

内部統制監査では、

1.経営者が財務報告に係る内部統制の有効性について評価し、
2.経営者が実施した内部統制の有効性の評価について公認会計士又は監査法人が監査を実施する
という形式となっています。

J-SOXが法制化されたのは、2000年代前半~半ばにかけて有価証券報告書の開示不正が発覚し、財務報告の信頼性を確保するための内部統制が企業内で有効に機能していないのではないかとの議論が活発になったことの帰結です。

最終的には、内部統制を強化し、財務報告の信頼性を確保することが必要とされることになり、2008年4月1日以後開始する事業年度から内部統制報告制度(J-SOX)が導入されることになりました。

2.上場準備段階での内部統制構築のポイント

新規上場後初めて到来する事業年度においては、期末時点の内部統制の経営者評価をしなければなりません。

なぜなら、新規上場会社は、上場後最初に到来する事業年度末から内部統制報告書の提出が求められるからです。

ただし、重要な留意点としては上場後の3年間は公認会計士による監査の免除を選択することが可能であることが金融商品取引法において定められています。(資本金100億円以上、または負債総額1,000億円以上の会社は監査免除の対象外)

また、いずれにしても内部統制報告書の提出は必要ですから、任意で監査を受けることも可能です。

経営者による内部統制の評価にあたっては、基本方針の決定、評価範囲の決定、整備・運用テストの実施、発見された統制上の不備の改善を行うとともに、これらに付随する文書化といった作業が必要となります。

株式市場に上場する企業には、パブリック・カンパニーとして相応しい内部管理体制の構築が求められますから、個人に依存した経営から、組織的な企業運営を行うことができる体制を整える趣旨からこのような内部統制が必要となります。

上場準備段階においては、上場後に対応が求められる内部統制監査報告制度の中で求められる水準で内部統制の整備、運用、評価を行う事が強く推奨されます。

3.具体的な内部統制の構築について

上場準備企業が内部統制を整備するにあたって、いくつかのポイントがあります。特に優先したいのはまず

・定款・諸規程
・職務分掌
・販売管理、購買管理、財務管理等の業務管理体制

等の整備です。

これらの作業には一定の時間を要するため、上場準備の早い段階から内部統制報告制度への対応を進めていく必要があります。

これらは当然に証券会社の審査でも求められますので、できるだけ早期に、相互の矛盾がないような形で作成をする必要があります。


また、上場申請直前年度までに、金融庁が公開しているひな形などを参考に下記の3点セットを準備すると良いでしょう。

・業務記述書

・フローチャート

・RCM(リスクコントロールマトリックス)


これらの書類は、作成・提出が義務付けられているわけではありませんが、内部統制状況の可視化、効率化のために実務上多くの会社で採用されています。

業務の流れが可視化されるため、監査法人の監査や証券会社の審査に耐えうる内部統制を構築するためにも、非常に有用な手段となります。

これらの書類は、当然ながら作成されているだけでは意味がなく、これに基づき評価できる方法・体制が確立されていることが必要となります。


3点セットや規定の作成、それと同時並行で行われる内部統制の整備と運用は、専門性も高く非常に多くの工数が要求されるので、内部統制専門の部署・担当者をできる限り早い段階から設置することが望ましいです。

業務や組織の変更に伴って文書の変更や新たな評価方法を整備しなければならないケースもあるので、可能であれば一過性のプロジェクト型の組織よりは常時実務遂行が可能な担当者を設けるようにするのが良いと思われます。

リソースやノウハウが不足する場合には、外部のコンサルティング会社を利用することも考えましょう。

コストは確かにかかりますが、上場ができないリスクに比べれば、多くの場合十分に払うべき対価と考えられると思います。