上場企業における機関設計の留意点について②

前回に引き続き、上場企業の機関設計について解説していきたいと思います。

今回は主に、監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社について解説し、監査役を中心とするコーポレートガバナンスの面からどのような機関設計が望ましいのかについてまとめてみました。

1.指名委員会等設置会社ついて

昨今では監査役会に代わり三委員会の設置を検討する企業が増加してきております。

三委員会は、監査委員会、指名委員会、報酬委員会のことで、取締役会が取締役の中から選任した委員を3人以上の委員で構成されます。

この三委員会を設置する会社を、会社法上は指名委員会等設置会社といいます。

この制度はアメリカにおける機関設計に準じて法制化された機関設計ですから、グローバルなビジネス展開する企業がこの期間設計を採用することが多いです。

監査役会設置会社との大きな違いが任期で、監査役会設置会社が4年であるのに対し、監査委員会の取締役の任期は1年です。

監査役会設置会社の場合、監査役が不適任と判明した場合でも、瑕疵がないか、株主総会で解任されない限り任期4年を全うさせるしかないというリスクがありますが、監査委員の場合は改選までの期間が短いため、こうしたリスクを嫌って三委員会設置会社を期間設計として採用するケースもあるようです。

2.監査等委員会について

監査等委員会設置会社は、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間的機関設計と言われています。

自ら業務執行を行わない社外取締役を複数置くことにより、取締役会の内部で業務執行と監督の分離を図る点は指名委員会等設置会社と同様ですが、指名委員会や報酬委員会のような人事や報酬の決定権はありません。

監査等委員会設置会社の運営においては、社外取締役を中心とする監査等委員会が、監査機能を担いつつ、業務執行に対する監督機能を果たすことを期待されています。

監査等委員会設置会社の機能面では、監査等委員会が取締役会の中に置かれ、組織として監査を担当します。

監査等委員会の構成員は、3名以上の監査等委員たる取締役で構成され、過半数が社外取締役です。

監査等委員は、業務執行と分離し、監督する立場に専念させるため、会社法331条3項により業務執行取締役・使用人・会計参与との兼任が禁止されています。

また、指名委員会等設置会社の場合と異なり、監査等委員会の場合は監査等委員となる取締役は任期が2年となります。

3.監査役会設置会社以外の期間設計を採用した場合の留意点

監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を採用した場合、いずれにおいても委員会における構成メンバーは全て取締役であるため、監査役と異なり取締役会で議決権を有する点に注意が必要です。(監査役会設置会社の監査役は取締役会の出席が義務付けられるものの、取締役会における議決権は有しません。)

コーポレートガバナンスの強化を図ったことの反作用として、業務執行取締役に対して好まざる議決権行使が行われる可能性について考慮しておく必要があります。

また、指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社を選択した場合は、会計監査人の選任が会社法上義務付けられる点にも留意が必要です。

どちらの場合も上場申請年度以前に会社法に基づく法定監査を受けなければならないため、会社によってはかなりの負担になる可能性があります。

監査等委員会設置会社または指名委員会等設置会社を選択する場合には、取締役としての適切な人材確保をはじめとして、こうした管理面のリソースが十分に確保されていることが重要となります。

 4.常勤監査役

監査役会設置会社の場合であれば、最低限の3人の監査役を登用したケースを考えたとき、1人の常勤監査役の選任が必要になります。

一方で、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社においては常勤監査役び選任は必要とされていません。

これは、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社が、会社の内部統制を前提とした業務執行の監視を志向しているためで、これらの会社においては会社の規模にかかわらず内部統制の構築が義務付けられています。

一方で監査役会設置会社の場合、常勤監査役は、社内の従業員、日常業務のサイクルや収支状況などを把握しつつ、業務執行の適法性と会計監査を行う立場にあります。

IPO準備段階では財務諸表監査と内部統制監査の業務が中心になりますが、財務諸表監査をクリアするには、社内に常駐して資産の動きを把握して、書類を正確に作成する必要があります。

では、常勤監査役を選任するタイミングはいつになるのでしょうか?

理想は、常勤監査役がIPOに向けたショートレビューの作成などの段階からKPIの設定にも関わることであると思われます。

というのも常勤監査役が財務諸表監査や内部統制の構築に関して、立ち上げ段階から関わることで、ちぐはぐなシステムになることを防止しやすくなるからです。

ただ、現実的には監査役が必要になるIPO申請年度の2期前のタイミングで多くの会社が常勤監査役を選任することになるでしょう。

証券会社との兼ね合いもありますが、必ずしもN-2期の期首から選任している必要はなく、N-2期中に選任できれば間に合うケースもあると思われます。