金融商品基準概説

暗号資産交換業者もそれ以外の企業も、株式、社債といった有価証券を保有するケースが多々あると思われます。

そうした金融商品を資産として保有する場合の会計処理を定めた基準として、金融商品基準があります。

金融商品の資産評価の基本は時価となりますが、常に時価評価という訳でもありません。

今回は、金融商品について見ていきたいと思います。

1.金融商品の範囲

金融商品とは、金融資産、金融負債およびデリバティブ取引に係る契約の総称です。

金融資産とは、具体的に以下のようなものが該当します。

  • 現金預金、受取手形、売掛金及び貸付金等の金銭債権
  • 株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びに先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引
  • デリバティブ取引によって生じる正味の債権等

一方で、金融負債は以下のようなものが該当します。

  • 支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務
  • デリバティブ取引によって生じる正味の債務等

なお、金融資産及び金融負債の範囲には、複数種類の金融資産又は金融負債が組み合わされている複合金融商品(例えば、転換社債型新株予約権付社債など)も含まれます。

2.金融資産と金融負債の発生と消滅の認識

商品等の売買又は役務の提供の対価に係る金銭債権債務の発生の認識については原則として、当該商品等の受渡し又は役務提供の完了によりその発生を認識します。

一方で金融資産と金融負債の認識は原則『金融資産の契約上の権利又は金融負債の契約上の義務を生じさせる契約を締結したとき』に行います。

そして、『金融資産の消滅の認識』は、金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したときに行います。

これはすなわち、通常の商品売買が引き渡し基準であるのに対し、約定日基準で会計処理するということを意味しています。

金融商品が約定日基準で資産、負債の認識をするのは、契約の時から当該取引の対象である金融資産または金融負債の時価変動リスクや契約の相手の財政状態などに基づく信用リスクが契約をした当事者に発生するからです。

金融資産においては、リスクとリターンが移転するタイミングとして約定日が適切であり、その日を境に資産への支配も移転するという訳です。

3.金融資産の支配の移転の2つのアプローチ

金融資産の契約上の権利に対する支配が他へ移転については二つのアプローチが存在します。


一つ目はリスク・経済価値アプローチという考え方です。

これは、金融資産を譲渡する場合に、金融資産のリスクと経済価値のほとんどすべてが他に移転した場合に当該金融資産の消滅を認識する方法を言います。


二つ目は、財務構成要素アプローチという考え方です。

金融資産を構成する財務的要素に対する支配が他に移転した場合に当該移転した財務構成要素の消滅を認識し、留保される財務構成要素の存続を認識する方法です。

結論から言えば、現在の会計基準は後者の財務構成要素アプローチが採用されています。

それは、下記のようにリスク経済価値アプローチでは、複雑な金融商品の経済価値の所有実態を適切に反映することができないからです。

たとえば当社が金融資産を譲渡したものの、譲渡後も回収サービス業務を引き受ける場合を考えています。

もしこの場合に、金融資産のリスクと経済価値(将来のキャッシュの流入、債権回収サービス、信用リスク等)を一体として考えるリスク・経済価値アプローチで処理してしまうと当社の財務諸表では金融資産の譲渡が反映されなくなります。

一方で財務構成要素アプローチによれば回収サービス業務と分解して金融資産の譲渡を当社の財務諸表に反映することができます。


そのため、基準57,58に記載されている以下の3つを要件として、支配が移転されると考えます。


①譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていること
譲渡人に倒産等の事態が生じても譲渡人やその債権者等が譲渡された金融資産に対して請求権等のいかなる権利も存在しないこと等、譲渡された金融資産が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていること。

譲渡人が実質的に譲渡を行わなかったこととなるような買戻権がある場合や譲渡人が倒産したときには譲渡が無効になると推定される場合は、当該金融資産の支配が移転しているとは認められません。

なお、譲渡された金融資産が譲渡人及びその債権者の請求権の対象となる状態にあるかどうかは、法的観点から判断されることになります。

②譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること。
譲受人が譲渡された金融資産を実質的に利用し、元本の返済、利息又は配当等により投下した資金等のほとんどすべてを回収できる等、譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること。

譲渡制限があっても支配の移転は認められますが、譲渡制限又は実質的な譲渡制限となる買戻条件の存在により、譲受人が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間に通常の方法で享受することが制約される場合には、当該金融資産の支配が移転しているとは認められません。


なお、譲受人が特別目的会社の場合には、その発行する証券の保有者が譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できることが必要になります。

③譲渡人が譲渡した金融資産を当該金融資産の満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと。
譲渡人が譲渡した金融資産を満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していることにより、金融資産を担保とした金銭貸借と実質的に同様の取引があります。

現先取引や債券レポ取引といわれる取引のように戻すことにより当該取引を完結することがあらかじめ合意されている取引については、その約定が売買契約であっても支配が移転しているとは認められません。

このような取引については、売買取引ではなく金融取引として処理することが必要です。

いかがでしたか。

金融商品基準は理解が難しいものの、原則さえ理解してしまえば非常に応用が利きやすい基準でもあります。

ぜひ何度も見て、勉強してみて下さいね。