暗号資産交換業者が販売所として暗号資産を販売した場合の会計処理について

暗号資産交換業を営む会社が同時に暗号資産販売所を運営している場合にどのような会計処理を行えばよいでしょうか?

暗号資産交換業者は通常、暗号資産を多量にストックしているので、自社の顧客に対し、販売所を通して暗号資産を継続的に購入・販売することがよくあります。

まず第一に、会計上の論点として販売価格と帳簿価格の差額をどのように処理するのかというものがあります。

有価証券に倣うとすると評価差額は、損益とする場合と『その他有価証券評価差額金』のように純資産に直入する場合、そして関係会社株式のように評価差額を一切認識しない3つの可能性がありますから、これを検討していきます。

また税務上の論点としては売却原価の算定方法があります。移動平均法や先入先出法など、在庫評価には様々な評価方法があるのでこれも検討する必要があります。

1.会計処理と評価差額について

暗号資産交換業者が運営する販売所は、保有する暗号資産の円貨換算交換レートが随時提示されているため、購入希望者が暗号資産を日本円で購入した段階で、売買が成立します。

したがって、売買価格について会計上、特に問題となることはありません。

会計における売買の認識時点として考えられるのが、『約定日基準』と『受渡日基準』です。

『約定日基準』は、売買の合意が行われた時に売却損益の認識を行い、主に有価証券などの物理的実態を持たない法律上の権利などが対象になります。

実態がないのなら、約定日に資産のリスクとリターンが移転すると考えられるからです。

もうひとつの『受渡日基準』は、売買引渡し時に売却損益の認識を行う方法です。こちらは固定資産などの物理的実態のある資産に用いられます。

物理的実態があるのならば、資産の『支配』が移転したのはものの受渡日と考えられるからです。

暗号資産の性質は、どちらかといえば有価証券に近く、売買取引の認識時点は『約定日基準』を採用しています。

そして、暗号資産交換業者は暗号資産の購入及び売却を反復的・継続的に行っているので、その差益は発生した期間における企業活動の成果として、収益として認識します。

そして、暗号資産販売所を運営する暗号資産交換業者にとって、暗号資産の売却は主たる事業目的でもあるので、本業の収入たる売却収入から売却原価を控除した純額で会計上処理することになります。

また同様の観点から損益計算書における表示区分及び勘定科目名に関しては、売上高の区分において「仮想通貨売却損益」として計上されることが予想されます。

2.法人税の取り扱いについての解説

次に法人税法上の取り扱いについて解説していきます。

法人税法上の暗号資産の取得原価の算出方法が令和元年度税制改正において定められました。

原価の算定方法は、移動平均法または総平均法とされ、法定算出方法は移動平均法とされました。

ただし例外として、個別法により算出することが許容されるケースもある点は一応注意しておきましょう。

暗号資産の売却損益の認識時点についても、同税制改正において、譲渡に係る「契約をした日」の属する事業年度に計上することとされました。

これは会計における約定日基準と同様の趣旨に基づく処理となります。

3.暗号資産売却の仕訳について

ここで、暗号資産交換業者(販売所)が実際に保有している暗号資産を売却したときの仕訳をみてみましょう。

【購入時】暗号資産交換業者は、1BTCを購入した。レートは、1BTC=10,000円であった。

(借)暗号資産勘定 10,000 (貸)現金及び預金 20,000

1BTC ×10,000円=20,000円

【売却時】暗号資産交換業者は、上記のビットコインを20,000円で売却した。

(借)現金及び預金 20,000 (貸)暗号資産勘定10,000

仮想通貨換算益10,000

1BTC ×20,000円=20,000円

20,000円-10,000円=10,000円

基準によれば、取得原価の計算は、暗号資産の一定時点における取得価額(付随費用を加算した額)から、前回計算時点より当該一定時点まで売却した部分に一定の評価方法を適用して計算した売却原価を控除した価額とされています。

基準には具体的な計算方法は掲記されていませんが、法人税の取扱いと同様、原則は移動平均法、継続適用を条件として総平均法を用いて計算すると考えるのが合理的です。

4.消費税の取扱い

暗号資産交換業者が保有する暗号資産を売却する取引は消費税の課税対象とされておりましたが、2017年7月以降は非課税売上となりました。

暗号資産の売却取引について、会計上は売却収入から売却原価を控除した純額で考えますが、消費税法上は総額処理となります。

これは、暗号資産の購入時においては支払対価の額が非課税仕入となり、売却時においては売却収入が非課税売上となるという事です。

消費税法上の仕訳例は次のとおりです。

【購入時】暗号資産交換業者は、1BTCを購入した。レートは、1BTC=10,000円であった。

(借)暗号資産原価 10,000 (貸)現金及び預金 10,000

→非課税仕入10,000円を認識

【売却時】暗号資産交換業者は、上記のビットコインを20,000円で売却した。

(借)現金及び預金 20,000 (貸)仮想通貨売上 20,000

→非課税売上20,000円を認識

なお、暗号資産の譲渡は非課税売上ですが、課税売上割合を計算する上では、支払手段となり分母に含まれないため、総額で処理することによる影響はないものと思われます。

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