海外子会社に対して暗号資産で貸し付けを行った場合の会計処理について

グローバル化の進展により、海外に支店・子会社を持つ企業が増えています。ホールディングカンパニーの場合、本社が資金調達を行い、それを各子会社に貸し付ける実務が一般的ですが、海外子会社の重要性が増したことで送金頻度が上がり、送金手数料の負担が重くなるという問題に対する解決策として、暗号資産で送金することにより手数料を抑えたいと考える企業が出てきているそうです。

 

今回の記事では、このようなケースにおいて、会計及び税務上の取扱いがどうなっているかについて解説したいと思います。

 

※特に注意書きがなければ、暗号資産の送金は、国内の販売所ですべて行っているものとします。

 

1.会計上の取扱い

企業が金融機関を通して海外送金する際には、海外送金手数料・円為替取扱手数料等が発生します。暗号資産のメリットの一つに、海外送金の送金手数料が安く済む点が挙げられます。

 

暗号資産を海外へ送金するといっても、その原則は法定通貨による場合と大きく異なるものではありません。送金時において会社が購入し保有している暗号資産を海外に送金することになりますが、違いは法定通貨と異なり、常に価値の変動があるため時価評価をする必要があるという点です。

 

そのため会社は、送金時の交換レートで円換算額を把握する必要があります。また、期末時に保有する暗号資産については、「仮想通貨の会計処理等の取扱い」に従い、外国通貨や売買目的有価証券とほぼ同様の処理によって時価による換算を行います(仮通会計基準5項を参照)。

 

仮に20百万円を海外子会社へ貸付金として送金する場合の処理を考えてみましょう。

購入した暗号資産は会計処理上は、海外子会社へ送金した時点で暗号資産を売却し円貨を送金したと考えます。したがって、送金時点の交換レートで円貨換算し、円建ての金額によって会計処理を行います。

 

問:海外子会社に対し、ビットコインで送金を行った。(送金手数料等は考えない)

 

【レート】

・購入時:1BTC= 500,000円(1円= 0,0000020 BTC)

・送金時:1BTC= 1,000,000円(1円= 0,0000010 BTC)

 

〔購入時〕

(借)仮想通貨勘定 20,000,000 (貸)現金及び預金20,000,000円 *1

*1: 20,000,000円× 0.000002= 40.0 BTC

 

(送金時)

(借)貸付金20,000,000*2 (貸)仮想通貨勘定8,000,000 *3

 (貸)仮想通貨換算益2,000,000 *3

*2 : 20BTC÷0,0000010=20,000,000円   → 邦貨で20百万円となればよく、それに必要な購入時のビットコインは20BTC

*3 : 20,000,000円×20BTC/40BTC = 10,000,000円   → 購入した20百万のうち10百万だけを取り崩せばよく、残額は換算益となる。

 

BTC取得時と支払時との換算差額は、為替差損益等と同様、営業外収益または営業外費用となります。(科目は「仮想通貨換算損益」が一般的です。)

 

期末時まで当該暗号資産を保有し続けた場合は前述したように時価による換算を行いますが、換算に際しては、自己の取引実績の最も大きい暗号資産取引所または暗号資産販売所における取引価格を用います。

 

なお、期末時の評価損益についても、為替差損益等と同様に営業外収益または営業外費用となります。(科目は「仮想通貨評価損益」が一般的です。)

 

2.法人税の取扱い

暗号資産を購入した時点では、会計上、損益に影響のない取引であるため、法人税の課税関係は生じません。

 

保有している暗号資産を送金した時点において、会計処理と同様に帳簿価額と送金時の時価との差額を把握し損金または益金に算入することになります。

 

暗号資産を期末に保有している場合に会計処理上時価評価した場合は、法人税法上も保有資産の時価評価損益を計上することになります。この場合、法人税の申告書で別表調整する必要はありません。

 

ただし、時価評価すべき暗号資産を期末時に保有しているにもかかわらず時価評価しない場合には、会計上の利益と税務上のあるべき利益にズレが生じるため、別表調整が必要となります(経過措置が適用された場合を除きます)。

 

3.消費税の取扱い

暗号資産を購入する取引は非課税仕入となります。

また、購入した暗号資産を送金する取引は、一度、暗号資産を売却して円貨に交換し、交換した円貨を送金する取引と同様と考えられます。したがって、円貨換算した総額が非課税売上となります。

暗号資産の非課税売上は、課税売上割合を計算する上では、支払手段であり分母に含まれません。よって、総額で非課税売上を認識することによる課税上の影響はありません。

また、貸付金として送金する取引自体は、資産の譲渡等に該当せず、消費税の課税関係は生じません。

 

円貨を海外送金する場合にかかる海外送金手数料と同様、送金手数料も非課税取引となります。

 

ただし、暗号資産を海外に送金した場合に発生する国内取引所への手数料は、消費税法の非課税の規定に記載されている「外国為替及び外国貿易法に規定する外国為替業務」に該当しないため、通常の役務の提供とされ課税対象取引に該当する点には留意が必要です。