上場時の株価算定

株価算定とは

株価算定とは、企業の株主価値を算定することです。上場企業であれば株式が証券市場で売買されているため時価で株価を算出することができますが、未公開企業は株式が売買されていないため明確な株価が決まっていません。しかし、未公開企業でもM&Aやストックオプションの発行、株式上場の際に企業の株価を計算する必要があり、その際に行うのが株価算定となります。

株価算定にはいくつか方法があります。同業他社や業種の株価と比べる「類似会社(業種)比較法」や、将来の利益を足し合わせる「ディスカウント(DCF)法」、翌年度の利益に一定倍率を乗じる「倍率法」などがあり、M&Aの際にはこれらの方法でいろいろと株価を出してみて買収価格を決めていきます。

ブックビルディング方式

IPO時の株価算定をする際には、ブックビルディング方式が一般的です。ブックビルディング方式は、新株を発行する際に投資家のニーズを調べた後に新株の価格決定を行うことから、需要積み上げ方式とも呼ばれます。

まず、幹事証券会社や株式を引き受ける証券会社は銀行など株価算定能力が高いと思われる機関投資家に希望購入価格を聞いて、価格はいくらからいくらまでの間ならいいか価格の範囲を決め提示します。この価格の範囲を仮条件価格と言います。

その後、当該IPOに申込希望の投資家が仮条件価格の範囲内で希望する価格と株数を決めて証券会社へ申し込みます。

幹事の証券会社は申し込まれた投資家の予約状況を見て市場動向に即した公開価格を決定します。

ブックビルディングのメリット・デメリット

メリット

・安く手に入る

IPO時にブックビルディング方式で価格が決定される会社は業績が伸びている会社が多く、初値がついて市場に出回った後に株価が上昇していく場合が多いです。そのため、今後価値が上がる可能性が高い株式を安く手に入れられることがブックビルディング方式のメリットの一つです。

・市場価格より利回りが高い

既に公開されている株式が公募増資される場合は、市場価格よりも安く株式を入手することが可能です。そのため市場で株式を入手するよりも高い利回りとなります。

 

デメリット

・既存株主の利益が減少する

ブックビルディングによって適正な価格が決定され売り出されても、公募増資の場合は株式が増えることになりますので、1株あたりの利益が少なくなります。結果として既存株主の利益が減少してしまうことは株主にとってデメリットと言えます。

また、1株あたりの利益が少なくなり価値が下がると考える既存株主が株式を手放すことにより株価が下落する場合もあります。

資金調達の算出方法

ブックビルディング方式では株式上場時の需要動向により株価が左右されることになりますが、ベンチャーキャピタルなどでも使用されている算出方法は以下のとおりです。

上場申請時の当期純利益×類似業種PER=上場時の時価総額

つまり1株あたり当期純利益×類似業種PER=上場時の株価

※PER(株価収益率)=時価総額÷当期純利益

実際の調達時には未上場企業の情報の不十分性や今後の業績の変動リスクなどが考慮され、上記の金額から2~3割ディスカウントされることになります。

注意点としては、PERは市場環境や業種によって変わってくるという点です。株価が安くなると必然的にPERは下がることになりますが、例えば株式市場全体が下がっている時期に上場をする際には、上場時の類似業種PERに大きく影響を受けます。想定していたよりも低いPERになった場合は、調達額も想定より少なくなる場合があります。

しかし、上場株価の決定は上場直前に行われることが多いため上場準備中はよくわからないものです。そのため上場前数カ月で株式市場が悪化し、想定していたPERが出せずに上場延期をするケースもあります。

また、PERとは別の考慮要素として、買収防衛策など経営安定のために上場後も創業者(経営者)の議決権を一定以上(過半数または3分の2以上)保つ必要があります。そのためなるべくその範囲で資金調達を検討するべきですが、上場前の資金需要によって議決権割合を低くせざるを得ない場合もあります。

赤字でも上場できるのか

新興市場では利益基準のない市場もあるため理論上は赤字でも上場することが可能ですし、実際に直前期が赤字でも上場した企業はあります。しかし、赤字の場合はPERを使った株価算定での株価が出せませんし、来期黒字予定であっても投資家目線ではこれまで赤字であった企業がどのようにして黒字になるのかという十分な説明を受けることができませんので、実際には赤字企業の上場は難しいものです。

また、黒字であっても数千万単位の当期純利益では上場ディスカウントによって時価総額は想定以上に安くなることが考えられますので注意が必要です。一般的に上場に値する企業と判断される直前期の当期純利益は最低でも2~3億円と考えられます。