実務対応報告第38号にみる仮想通貨の資産性

現在のわが国における唯一ともいえる仮想通貨に関する会計基準として『実務対応報告38号 資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い』があります。

ただし、実務対応報告自身が、『仮想通貨に関連するビジネスが初期段階にあり、現時点では今後の進展を予測するのは難しいことや仮想通貨の私法上の位置づけが明らかでないことを踏まえ、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めている。』と述べているように、この実務指針は、詳細な規定というよりおおまかな会計処理の考え方を示す内容になっています。

今後継続して、この実務対応報告の解説記事を上げていく予定ですが、今回は、会計処理の大前提となる『資産性』すなわち『仮想通貨は資産であるのか否か』という観点から仮想通貨を論じた27項について解説をしていきたいと思います。

 

会計上の資産の定義

会計の原則的な考え方を示した『概念フレームワーク』では、資産を次のように定義しています。

 

『企業が過去の事象の結果として支配している現在の経済的資源。経済的資源とは、経済的便益を生み出す潜在能力を有する権利』

 

この難解な定義における理解のポイントは2つです。

 

①支配:その企業が自由に使用できる状態にあること。

通常は、契約などによって所有権を有している状況が想定されますが、長期のリース物件のように賃貸していても実質的に所有しているのと変わらない状態にある場合には『支配』されていると考えます。

 

②経済的便益を生み出す潜在能力:経済的なメリットがあること。現金や預金は、それを使ってモノを購入したり、給与の支払に充てたりできるため典型的な経済的資源(資産)です。また、売掛金や貸付金は、将来の現金や預金と考えられるのでこれも経済的資源(資産)となります。さらには、ライセンスのような権利の使用権も、それらを使って最終的にはお金が生み出されるため経済的資源(資産)と考えます。

 

つまり、会計上は(非常にざっくりと定義すると)『お金に変わるもので、企業が自由に使えるもの』が資産となります。

 

仮想通貨は資産なのか?

実務対応報告38号27項では、この問題について入念に検討しています。

この検討過程で特に問題とされているのが、仮想通貨の法的な地位です。27項では『仮想通貨は現時点において、司法上の位置づけが明確でなく、仮想痛に何らかの法律上の財産権を認め得るか否かについては明らかではない』とあり、この点が仮想通貨の資産性の有無についての議論のポイントとなります。

 

概念フレームワークの資産の定義にあるように、会計上の資産の要件として会社が『支配』をしていることが必要です。支配しているという状態は、所有権なりリースをする権利なり、何らかの形で契約が結ばれ、法律上の権利となっているのが普通です。

ところが仮想通貨は法定通貨と異なり、国家が法律的に支払手段として保証を与えている訳ではありません。電子的な数値に対して、多くの人の『信用』を付与することで貨幣のように流通しているのが仮想通貨です。となると、どういった裏付けがあって仮想通貨を資産と認定するのかという問題が発生します。

 

この点について27項では、仮想通貨の法的地位についての結論は出さずに、その上で資産性を認めるという論理を採用しました。会計上の資産の多くは上で述べたように何らかの法律上の権利を伴いますが、全ての会計上の資産が法律上の権利に該当する訳ではありません。

その例示として27項では、繰延税金資産を挙げています。

繰延税金資産は、費用の一部が税務上否認されること等によって会計上の利益から想定される水準以上に税金を支払った場合に、将来税金が減額される効果を資産として見積もったものです。

これは法律上の権利ではありませんが、否認された費用が税務上認容されること等により税金が減額され、会社のキャッシュが増加する蓋然性が高いことから資産の要件を満たすと考えます。

 

仮想通貨が仮に法律上の権利でなかったとしても、現に仮想通貨の市場は存在し交換を通じて仮想通貨を法定通貨等へ交換する事が可能です。とすれば繰延税金資産と同様、資産として取り扱うことができるはずです。これが27項の結論です。

 

いかがでしょうか。

仮想通貨に慣れ親しんだ人にとって仮想通貨が資産であるというのは自明のことのようにも思えます。しかし、仮想通貨が資産であるというのは会計上は必ずしも自明ではなく、厳密な議論を必要とすることが分かりました。

実務対応報告38号は、仮想通貨の取扱いについて様々な視点からその会計処理のあるべき姿について検討をしています。会計基準の中では比較的短く読みやすい基準ですので、興味があればぜひご一読されることをお勧めいたします。