実務対応報告第38号にみる仮想通貨の会計的特徴

仮想通貨の資産性ついては以前の記事で解説しましたが、それでは仮想通貨を企業が取得し、保有した場合はどのような勘定科目を使用すればよいのでしょうか?

『実務対応報告38号 資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い』29項~33項では、既存の会計基準の枠内で仮想通貨を定義する試みを行っていますが、この29項以下を読み込むことで仮想通貨の会計的な特徴がより深く理解できるようになっています。

今回は、この29項から33項を解説する形で、仮想通貨の会計的特徴を見ていきたいと思います。

 

仮想通貨と外貨建通貨の違い(29項)

仮想通貨を外貨建通貨の一種として見ることは可能でしょうか?

ドルやユーロといった外貨建通貨の特徴を考えてみると

 

・海外の企業などに対する決済手段として利用できる

・(本邦通貨と異なり)為替変動により価値が変動する

 

という点で仮想通貨に類似しています。

しかし、実務対応報告38号29項は、『仮想通貨は中央銀行等の裏付けのある法定通貨ではないことから、仮想通貨を外国通貨として会計処理することは適当ではないと考えられる。』と結論付けています。

 

これは、仮想通貨が法定通貨のような国家的『信用』を付与されていないため

 

・決済手段として使用できる場面が外国通貨と比べるとかなり限定されること

・価値変動の程度(ボラティリティ)が非常に高く、この側面から見ると通貨というより高リスクの金融商品的な特徴があること

 

から上記のような結論に至ったと考えられます。

 

仮想通貨と金融商品の違い(30項)

30項にも引用されていますが、我が国における金融商品の定義は

 

『現金、他の企業から現金若しくはその他の金融資産を受け取る契約上の権利、潜在的には有利な条件で他の企業とこれらの金融資産若しくは金融負債を交換する契約上の権利、又は他の企業の株式その他の出資証券である。』(金融商品実務指針第4項)

 

となっています。

非常に難解な定義ですが、ポイントは『契約上の権利』という点です。

金融商品の購入者は、(たいていは投資目的で)契約を締結し、その結果として他の金融商品や資産、現金などを受け取ります。

その形態に様々な違いはありますが、契約をベースに個別的に権利の売買を行っているという共通点があります。

 

一方で仮想通貨は、通貨として流通させることを狙って設計されていますから、仮想通貨自体に個別性はありません。

実際上も、仮想通貨の購入・売却は、株や債券ような権利の売買をしている訳ではなく、仮想通貨自体を売買していると考えた方が自然です。

以上のような特徴の違いを考慮し、30項では仮想通貨は『現金以外の金融資産にも該当しない』と結論付けています。

 

仮想通貨とトレーディング目的の棚卸資産の違い(31項)

トレーディング目的で保有する棚卸資産は、『活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的』(棚卸資産基準第3項)として保有する棚卸資産です。

例えば製造業における棚卸資産は、仕入・加工・販売といった時間のかかる工程を通過する必要があるため、売買・換金を行うのに事業遂行上の制約があります。

そのため、通常の棚卸資産は取得原価で評価し、収益性の低下によって正味売却価額が帳簿価額より下落した場合は減損の対象となります。

 

一方で、このような棚卸資産の一般的な特徴を持たない棚卸資産も存在します。

それがトレーディング目的の棚卸資産です。

例としてよく上がるのが『金地金』です。

金属としての『金』を売買する会社のケースを考えてみましょう。

この会社にとっての『金』は本業での収益獲得のために保有する資産なので紛れもない棚卸資産です。

一方で『金』は、商品(コモディティ)市場で活発に取引され、製造業でのように換金・売却に事業遂行上の制約があるとは言えません。

となると、通常の棚卸資産のように取得原価で評価するのではなく、時価で評価する方が良いのではないか?という事になります。

そして、実際に棚卸資産基準においても、トレーディング目的の棚卸資産は、期末に時価評価し、その評価差額は当期の損益とする(原則は売上高)ことを求めています。

つまり、棚卸資産でありながら金融商品としての特徴を強く持つのがトレーディング目的の棚卸資産です。

 

では、仮想通貨をトレーディング目的の棚卸資産と考えることはできないでしょうか?

実務対応報告38号では、『すべての仮想通貨が棚卸資産としての定義を満たすものとすることは適当ではないと考えられる』とあります。

その根拠として挙げられているのが、仮想通貨が『決済手段として利用されるなど棚卸資産と異なる目的としても利用される』という点です。

トレーディング目的の棚卸資産はあくまで営業目的達成のために保有される棚卸資産であり、その売却によって会社が収益を上げることが前提とされています。

一方で仮想通貨は、その保有者は必ずしもその売却を営業目的としているとは限りませんし、そもそも売却目的ではなく決済手段として保有しているケースもあります。

このように保有目的の点でトレーディング目的の棚卸資産と仮想通貨は決定的に異なるため、仮想通貨をトレーディング目的の棚卸資産として会計上定義することは適当ではないという結論になります。

 

無形固定資産と仮想通貨の違い(32項)

資金決済法において仮想通貨は、『電子的に記録され移転可能な財産的価値』と定義されています。

仮想通貨≒電子情報と考えれば、仮想通貨を無形固定資産として会計上定義することも可能なように思えます。

32項では、この点について検討をしています。

無形の資産という点に着目すれば、仮想通貨を無形固定資産として処理することもあり得る会計処理かもしれません。

しかし、問題は仮想通貨を『固定資産』と考えることができるか?という点にあります。

会計上の固定資産の特徴としては以下の2点が挙げられます。

 

①販売目的で保有していない(使用目的で保有)

固定資産の重要な会計的特徴として、使用により収益獲得に貢献するというものがあります。

企業が自動車を保有している場合でも、自動車メーカーが販売用に保有していれば棚卸資産、社用車として保有していれば固定資産になります。

固定資産として会計処理するためには、企業がその資産を使用して収益を獲得していくという特徴を持つことが必要となります。

仮想通貨で獲得できる収益はあくまで販売の結果であって、仮想通貨を機械装置のように使用して収益を獲得するという性格はありません。

こうした観点から考えると、仮想通貨を無形固定資産として扱う事は会計的には難しいという結論になります。

 

②1年を超えて保有するもの

固定資産の第二の特徴を考えても、仮想通貨を無形固定資産として会計処理することは難しいように思えます。

なぜなら、固定資産として会計処理を行う前提として『1年以上の長期にわたって保有する事』があるからです。

例えば、オフィスで使うペンやコピー用紙のような事務用品は、消耗品費などの費用項目で処理され固定資産には計上されません。

仮想通貨は事務用品のようにほぼ確実に1年以内に消費されるということはありませんが、短期での売買も当然あり得るため、この観点からも無形固定資産として処理することは難しいという結論になります。

 

仮想通貨の会計処理(33項)

実務対応報告38号33項では『前項までの整理を踏まえると、仮想通貨については、直接的に参照可能な既存の会計基準は存在しない』とあります。

これまで見てきたように、既存の会計基準の枠組の中で仮想通貨の会計処理を行おうとしても仮想通貨の持つ特徴に阻まれうまくいきません。

 

結論として実務対応報告38号33項は、『仮想通貨に関する会計処理について」既存の会計基準を適用せず、仮想通貨独自のものとして新たに会計処理を定めている』として仮想通貨について独自の会計処理の必要性を述べています。

 

なお次回以降の記事では、34項以下の仮想通貨の会計処理についてもみていきたいと思います。