カストディ業務に関する各種規制について②
今回も前回に引き続いて、カストディ業務に関する規制について考察していきたいと思います。
【参考記事】
包括的な内容だった前回に対し、今回はより詳細な内容について解説していきたいと思います。
1.カストディ業務とその規制
暗号資産のカストディ業務は、ウォレットサービスに代表されるような、自身では暗号資産の売買等は行わず、利用者の暗号資産を保管・管理して、利用者の指図に基づいて利用者が指定するアドレスに暗号資産を移転させる業務をいいます。
2020年5月の改正資金決済法以前は、カストディ業務は暗号資産交換業の対象とはされていませんでしたが、暗号資産の管理のみを行う場合であっても、サイバー攻撃などによる顧客の暗号資産の流出リスクやマネーロンダリング・テロ資金供与のリスクなどについては、暗号資産の売買等と同様のリスクがあると考えられたことから同改正により暗号資産交換業の対象となりました。
この背景には、2018年10月の暗号資産のカストディ業務を行う事業者についてもマネーロンダリング・テロ資金供与規制の対象とするよう各国に求めるFATF(Financial Action Task Force)勧告があると言われています。
実際これまでにも、暗号資産が流出するという事件が実際に起きていますので、暗号資産カストディ業者に対して「暗号資産の管理」に関する規制が課すことは適切な判断であったと思われます。
次節以降では、それぞれの義務の内容について見ていきたいと思います。
2.情報提供義務
カストディ業務の利用者保護を目的として、事業者には情報提供義務が課されています。
提供される情報は、下記のように利用者が事業者の信頼性について担保できるような内容が主体となっています。
⑴事業者の商号と住所、登録番号
⑵取引内容
⑶暗号資産の管理方法
事業者の素性が分からなかったり、暗号資産の管理方法が利用者に知れていなかったりすると、利用者は安心して取引を行うことができませんし、架空の会社を利用した悪質な詐欺等の温床にもなりかねません。
事業者は必要に応じて、書面等でこれらについて情報提供することが必要となります。
(2)分別管理義務
分別管理義務とは、顧客から預託された資産と暗号資産交換業者に帰属する資産とを明確に区別して管理する義務のことをいいます。
分別管理が行われないと、顧客の預託資産を特定することができなくなり、顧客に対して大きな不利益を与えることになります。
分別管理義務が課されるのは下記の3種類の資産です。
⑴事業者の資産と顧客の資産
上で述べたように事業者の資産と顧客の資産が分別管理されていないと、顧客の資産を特定するのが困難になります。
⑵ホットウォレットとコールドウォレット
インターネットに接続できる環境にあるウォレットをホットウォレットといいます。
ホットウォレットは少額の保管や送金には便利ですが、ハッキングやウイルス感染のリスクに対してやや脆弱であるという欠点があります。
それに対し、インターネットに接続していないウォレットをコールドウォレットといいます。インターネット環境から遮断された状態で暗号資産の保管ができるためハッキングや資産流出リスクが低く(資産の安全性が高く)、高額な暗号資産の保管などに適しています。
ホットウォレットとコールドウォレットは、それぞれリスクもセキュリティも異なるので分別管理が必要になります。
⑶履行保証暗号資産と事業者の資産
2018年のコインチェック事件において、利用者の暗号資産の外部流出が大きな問題となりましたが、これを受けて、利用者保護の観点から暗号資産交換業者は一定の暗号資産について、同種・同量の暗号資産を自己の暗号資産(履行保証暗号資産)として保有しなければならないとされました。
また、履行保証暗号資産については、それ以外の自己の暗号資産と分別して管理しなければならないこととされました。
この趣旨は、特にオンラインで管理するホットウォレット管理の暗号資産について、利便性・流動性がより高い一方で、利用者の暗号資産の外部流出のおそれが高いことから、履行保証暗号資産として、利用者への暗号資産の売買等の「履行」を「保証」すべく、暗号資産交換業者に対して同種・同量の暗号資産を保有することを求めたものと思われます。
3.犯収法による規制
「犯収法」は、マネーロンダリングやテロ資金供与を規制する法律です。
暗号資産カストディ業務の一環として行われる取引において懸念される点の一つに、マネーロンダリングやテロ資金供与への利用です。
例えば、麻薬取引による売買代金等の犯罪収益を暗号資産取引所に入金し、暗号資産に換金した後でプライベートウォレットに送金するという典型的な手口があります。
プライベートウォレットの暗号資産は、暗号資産規制が緩い国の取引所で法定通貨に換金されたり、暗号資産で商品を購入して転売されたりすると、追跡が非常に困難になります
このような様々な懸念があるため、暗号資産カストディ業者にも犯収法による規制が及ぶことになりました。
そのため暗号資産交換業者は、下記のような義務を負うことになります。
⑴取引時確認
⑵取引記録等の保存
⑶疑わしい取引の届出
いかがでしたか?
カストディ業務を行う上でこのように様々な規制が課されるため、中小の取引所の中にはあえて暗号資産交換業者とならないような業者も出たといいます。
結果としてリスクの高いカストディ業務を請け負える規模、内部統制等を備えた業者だけが残ることになり、より適切な法整備がなされたといえるでしょう。