貸金決済法の改正について①
2016年に改正された資金決済法により、暗号資産に関する定義付けが正式に行われました。(当時は、暗号資産ではなく仮想通貨と呼ばれていました。)
また、2019年には、暗号資産を取り巻く環境変化を受け、利用者保護やルール明確化の観点から資金決済法のさらなる改正が行われ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更しています。
今回のコラムでは、2回の資金改正法を概観し、その趣旨等について解説したいと思います。
1.2016年改正について
2016年改正の背景には、第一に2014年に起こったマウントゴックス社の破綻があります。
この事件は、当時、世界最大級の交換業者であったマウントゴックス社のサーバーが何者かによってハッキングされ、同社のビットコインと預かり金の大半が流出してしまったというものです。
その被害額は、当時の市場価格にして470億円相当、被害顧客の数は十二万七千人にも及びました。
この事件が原因で、マウントゴックス社はまもなく破綻し、また、元CEOが逮捕されるなど、社会的にも非常に大きな影響がありました。
このマウントゴックス事件は、暗号資産の安全性、信頼性を考えるきっかけにもなり、利用者保護の観点から、2016年の資金決済法の改正へとつながっていきます。
暗号資産交換業者に金融庁の登録が必要になったのも、この事件が契機となっています。
第二に、マネーロンダリングとテロ資金供与の観点から資金決済法の改正がなされました。
麻薬の違法取引や犯罪にからんで得た不正資金の出所や流れを偽装する目的で、金融機関口座に送金を繰り返すなどの手口で、少なくとも年間2,000億円以上が暗号資産を用いたマネーロンダリングや不正送金に利用されていると言われています。
こうしたマネーロンダリング、テロ資金供与規制という国際的な要請への対応という観点から、2016年改正はなされました。
2.2016年改正の内容
2016年改正では、暗号資産(当時は仮想通貨)の定義付けが行われました。
2016年改正の定義では、第一号仮想通貨と第二号仮想通貨に分ける構成を採っています。
第一号では、前払式支払手段との棲み分けを意識した定義を行い、第二号では、第一号を前提としつつ、第一号で定義した仮想通貨と相互に交換可能なものを仮想通貨に含める構成となっています。
それでは、第一号仮想通貨と第二号仮想通貨のそれぞれの定義を見ていきましょう。
⑴第一号仮想通貨
第一号仮想通貨は、下記のように定義されています。
- 物品の購入・仮受け、または役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること(不特定性)
- 不特定の者を相手方として購入・売却を行うことができる財産的価値であること(財産的価値)
- 電子機器その他の物に電子的方法によって記録され、電子情報処理組織を用いて移転することができるものであること(電子的記録)
- 日本通貨・外国通貨、通貨建資産でないこと(非法定通貨)
以下、それぞれの要件について解説をしていきます。
一つ目の条件の不特定性については、物品の購入を行う場合やサービスの提供を受ける場合に、代金の支払いのため、暗号資産を現金の代わりに不特定の者に対して使用できることがその具体的な内容になります。
また、「不特定の者に対して使用できること」とは、ポイントサービスのように特定の店舗でしか使えないのではなく、広く誰に対しても使えることをいいます。
二つ目の財産的価値は、それ自体に価値があることをいいます。
例えば法定通貨は、日本円であれば一万円、ドルであれば1ドル、元であれば200元といった財産的価値があります。
これと同じように、1号仮想通貨にも財産的価値がなければいけません。
加えて、1号仮想通貨として認められるためには、不特定の人との間で、取引所や交換所などを通じて暗号資産自体を買ったり売ったりできる必要があります。
この場合の「不特定」とは、制限を受けずに、暗号資産を日本円や外国通貨と交換できることをいいます。
第三の電子的記録についても説明します。この「電子機器や電子情報処理組織」は、PCをイメージすると良いかもしれません。
暗号資産は実物がなく、すべてコンピュータ上で記録・移転されることになりますが、逆にいえば実態のある紙幣などを発行する場合は当然、第一号仮想通貨の定義は満たしません。
第四の「非法定通貨」については、リアルマネーではないという程度の意味です。
普段私たちが使用している日本円などの法定通貨が仮想通貨にあたらないのはもちろんですが、単位とし「円」や「ドル」と表示されるものも仮想通貨にはあてはまりません
⑵第二号仮想通貨
第二号仮想通貨の定義は、以下のようにされています。
- 不特定の者を相手方として、1号仮想通貨と交換することができる財産的価値であること(交換可能性)
- 電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(電子的記録)
第二号仮想通貨の特徴は、第一号仮想通貨との交換が可能であるという点です。
留意点としては、第一号仮想通貨と同じように、「不特定の者を相手方として」という要件があるため、発行者によって第一号仮想通貨との交換が制限されている場合には、第二号仮想通貨としての要件を満たすことはできないことが挙げられます。
また、第二の要件については、第一号仮想通貨の場合と一緒ですから、解説は省略します。
今回の内容は以上になります。
次回も、貸金決済法の改正について解説をしていきたいと思います。