貸金決済法の改正について③

今回も前回に引き続き、資金決済法改正についての解説をしていきます。

 

前回までのコラムでは、マウントゴックス事件を契機に2016年改正につながり、第一号、第二号仮想通貨(暗号資産)の定義や、暗号資産交換業者の要件などが定義されたことについて解説しました。

 

今回は、2016年改正で定義された暗号資産交換業者について課される具体的な規制内容について解説をしていきたいと思います。

 

1.暗号資産交換業者の登録についての規制

暗号資産交換業を始めたい事業者には一定の要件が定められており、具体的には以下の2つの要件をみたす必要があります。

 

⑴資本金の額が1000万円以上あること
⑵純資産額がマイナスではないこと

 

資本金の額に一定のラインが設けられているのは、暗号資産の取引きを適正に、そして確実に行えるだけのシステムを構築するには、ある程度の初期投資が必要であるためです。

 

また、債務超過の事業者が暗号資産交換業者となることにより、顧客の資産がおびやかされないよう純資産額がマイナスの事業者が暗号資産交換業者とならないよう配慮がなされています。

 

加えて、貸金決済法第63条の5第5号には、「この章(暗号資産)の規定を遵守するために必要な体制の整備が行われていない法人」が(暗号資産交換業者の)登録拒否事由となっています。

 

これはすなわち、財務局から見て必要な体制が備わっていないと判断されればいつまでも登録ができないということを意味しています。

 

この『必要な体制』は、いわゆる内部統制と考えられますが、内部統制整備のためには高いコストが要求されるため、資本金1000万以外にもこうした内部管理体制を一から作るコストを負担できるほどの資金力のある法人でないと暗号資産交換業の登録はできないということになります。

 

2.暗号資産交換業者の情報提供に関する規制

暗号資産取引に関し、暗号資産交換業者から利用者に対して、投資判断に必要な情報提供が正確になされなければなりません。

 

そのため、利用者保護に関する措置として、内閣府令によって暗号資産交換業者は、利用者への説明・情報提供義務を課されています。

 

その情報提供すべき事項の内容を簡単にまとめると下記のようになります。

1.暗号資産が、本邦通貨又は外国通貨ではないこと

2.取り扱う暗号資産が、特定の者によりその価値を保証されていない場合は、その旨

3.特定の者によりその価値を保証されている場合は、当該者の氏名、商号/名称及びその保証の内容

4.本邦通貨又は外国通貨との誤認防止に関し参考となると認められる事項

5.取り扱う暗号資産の概要

6.取り扱う暗号資産の価値の変動を直接の原因として損失が生ずるおそれがあるときは、その旨及びその理由

7.その他、利用者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な損失が生ずるおそれがあるときは、その旨及びその理由

 

さらに事務ガイドラインでは、以下のような詳細な例示がなされています。

 

・暗号資産交換業者がレバレッジ取引を提供する場合、利用者は提供されるレバレッジ倍率に比例して高額の損失を被るリスクを負うことになります。そのため当該レバレッジ取引によるリスクの大きさ等についても利用者に適切に説明する必要があります。

・暗号資産の特性(電子機器その他の物に電子的方法により記録される財産的価値であり、電子情報処理組織を用いて移転するものであること)や、サイバー攻撃による暗号資産の消失・価値減少リスクがあることについても説明の必要があります。

 

 

また取引形態に応じた説明態勢を整える必要があることについても事務ガイドラインには記載があります。

 

たとえば、インターネットを通じた取引の場合に、利用者がその操作するパソコンの画面上に表示される説明事項を読み、その内容を理解した上で画面上のボタンをクリックする等の方法を採ること。

 

対面取引の場合には書面交付や口頭による説明を行った上で当該事実を記録しておく方法を採ることが例示として挙げられています。

 

3.財産の分別管理義務に関する規制

暗号資産交換業者は、利用者から預かった暗号資産をはじめとする顧客の資産と、事業者自身の暗号資産や現預金を分別管理する必要があります。

 

分別管理とは、顧客の資産と自己の資産を区別して管理することで、証券会社や暗号資産交換業者の法律上の義務となっています。

 

暗号資産交換業者は、公認会計士等による分別管理監査を受けることで正しく分別管理が行われていることを証明しなければなりません。

 

分別管理は、万が一会社が会社更生法の適用等を受ける事態となっても、分別管理がなされていれば顧客から預かった資産は顧客に返還されることになるため、投資家保護の目的から義務付けられています。

 

したがって暗号資産交換業者は、分別管理をすることによって、どの利用者の暗号資産であるか、常に判別できる状態にしておく必要があります。

具体的なチェック項目は、日本公認会計士協会が公表している実務指針に定められています。

チェック項目に従い、登録業者が顧客の資産を預かるに足る内部管理が出来ているか、専門家である公認会計士が監査を実施します。

 

 

また、金融庁に登録された登録業者は、年に1回、公認会計士等による分別管理監査の実施結果報告書を財務局に提出しなければいけません。

 

 

もし分別管理義務に違反した場合、最大2年の懲役、最大300万円の罰金のどちらか、もしくは両方が科される可能性があります。